4-4 ヘッジ会計について - 先物・オプション入門

ヘッジ会計について

当社で上場されている商品先物を利用して当該商品の価格変動リスクをヘッジし、経営に役立てることは可能です。そのためにはヘッジした結果についてヘッジ会計やヘッジ税制を適用することが必要となります。

以下では、市場を利用される当業者の皆様の参考として、一般的なヘッジ会計とヘッジ税制についての説明をしておりますが、実際の会計処理や税務申告にあたっては、会計士や税理士、あるいは最寄りの税務署へ御確認をお願い致します。

1. ヘッジ会計とは

当社が提供する商品先物を含め、デリバティブ取引を行った際、その結果について会計処理を行うにあたり、遵守すべきルールである「金融商品に関する会計基準96」によると、「ヘッジ会計とは、ヘッジ対象の資産又は負債に係る相場変動を相殺するか、ヘッジ対象の資産又は負債に係るキャッシュ・フローを固定してその変動を回避することにより、ヘッジ対象である資産又は負債の価格変動、金利変動及び為替変動といった相場変動等による損失の可能性を減殺することを目的として、デリバティブ取引をヘッジ手段として用いる取引をいう」と規定されています。

さらに、このヘッジ会計を行う意義について、同基準97では「ヘッジ手段であるデリバティブ取引については、原則的な処理方法によれば時価評価され損益が認識されることとなるが、ヘッジ対象の資産に係る相場変動等が損益に反映されない場合には、両者の損益が期間的に合理的に対応しなくなり、ヘッジ対象の相場変動等による損失の可能性がヘッジ手段によってカバーされているという経済的実態が財務諸表に反映されないこととなる。このため、ヘッジ対象及びヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を財務諸表に反映させるヘッジ会計が必要と考えられる。」としています。

2. ヘッジ会計の具体例

それではヘッジ会計の具体例を見ていきましょう。

3月1日において灯油の現物価格は50,000円/klとなっていたとします。このとき、3月末を決算期とする航空会社のA社は、夏休みシーズンの需要期にあわせて灯油先物取引でジェット燃料の価格変動リスクのヘッジを行うことにしました。A社は3月1日時点で、先物市場で7月限の灯油先物を50,000円/klで1万kl分のポジションを買い建てました。その後、3月末の決算期末時点では、灯油の先物価格と現物価格はともに51,000円/klに値上がりしたとします。

この例では、3月末の決算時点で、A社の先物取引の評価益は1,000円/kl×1万kl=1,000万円となっています。しかし、これはあくまで来期7月の燃料購入に対するヘッジ取引に伴う評価益です。一方、現物価格は1,000円/kl値上がりしていますが、実際の仕入は来期の7月となるため、3月末時点では現物取引に関わる損益は発生していません。このため、A社としては、先物取引の評価益を当期の利益とはせずに、現物取引が行われる来期の7月まで繰り延べることができれば、ヘッジ手段とヘッジ対象の損益が同一の会計期間に認識されることになります。この例では、先物取引により発生している利益1,000万円を来期の利益として繰り延べることができればよいことになります。こうしたヘッジ対象とヘッジ手段の損益の認識のタイミングを調整する会計上の手続きがヘッジ会計です。

ヘッジ取引とはそもそも、ヘッジ対象の損益をヘッジ手段の損益と相殺することで、損益を固定化することに意義があります。したがって、ヘッジがうまく機能している場合は、ヘッジ終了時点でヘッジ対象の損益はヘッジ手段の損益で相殺されます。しかし、仮にヘッジ会計が認められなければ、ヘッジの途中で課税が行われることにより、税金分だけ損益にずれが生じることになります。

この例で、ヘッジ会計が適用されれば、先物取引から発生する利益は、現物取引の損失によって相殺されるため、課税は原則として発生しません。しかし仮にヘッジ会計が認められず、3月末時点でヘッジ手段である先物取引の評価益1,000万円について、税率50%で課税された場合では、3月以降相場の変動がないとすると、7月時点で、実際の現物仕入価格は51,000円/klとなり、ヘッジ対象である現物取引は1,000円/klのマイナスが発生していることになります。一方、ヘッジ手段である先物取引では、3月時点で1,000万円の利益に対し、既に500万円が税金として徴収されているので、先物取引についての税引き後利益は500万円となります。ここで、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益を通算すると、税金の500万円分がマイナスとなってしまいます。

【ヘッジ会計のイメージ】

 

3. ヘッジ会計の対象となる取引

「金融商品に係わる会計基準」によれば、ヘッジ会計が適用されるヘッジ対象は、①「相場変動等による損失の可能性がある資産又は負債で相場変動等が評価に反映されていないもの」、②「相場変動等が評価に反映されているが評価差額が損益として処理されないもの」、③「資産又は負債に係るキャッシュ・フローが固定され、その変動が回避されるもの」と規定されています。

たとえば上記①の例としては、取得原価で評価されているガソリンや灯油などの商品在庫が挙げられます。持ち合い株式などの有価証券は②の例であり、防衛省への入札による固定価格での軽油の売買契約は③の例にあたると考えられます。

また、ここで想定されているのは、現存する資産・負債だけでなく、「予定取引」により発生が見込まれる資産又は負債も含まれます。この「予定取引」とは、「未履行の確定契約および契約は成立していないが、取引予定時期、取引予定物件、取引予定量、取引予定価額等の主要な取引条件が合理的に予測可能であり、それが実行される可能性が極めて高い取引」を指します。したがって、受注生産・受注販売だけでなく、見込み生産・見込み販売も対象となりえます。

このヘッジ対象となりうる予定取引の判断基準として「金融商品会計に関する実務指針162」では「金融商品会計基準(注)における『契約は成立していないが、取引予定時期、取引予定物件、取引予定量、取引予定価格等の主要な取引条件が合理的に予測可能であり、かつ、それが実行される可能性が極めて高い取引』に該当するか否かを判断する際には、例えば、以下の項目を総合的に吟味する必要がある。」とした上で、以下の6つの項目を列記しています。

(1)過去に同様の取引が行われた頻度

当該取引と同様の取引が過去において一度も行われていない場合には、他の要素を十分に吟味する。

(2)企業が当該予定取引を行う能力を有しているか

企業が、法的、制度的、資金的に当該取引を実行する能力を有しない場合には、ヘッジ対象になりえないものとする。

(3)当該予定取引を行わないことが企業に不利益をもたらすか

当該取引を行わないことが企業に不利益をもたらさない場合には、他の要素を十分に吟味する。

(4)当該予定取引と同等の効果・成果をもたらす他の取引がないか

当該取引と同等の効果・成果をもたらす他の取引がある場合には、他の要素を十分に吟味する。

(5)当該予定取引発生までの期間が妥当か

予定取引発生までの期間が長い場合ほど実行される可能性は低くなると考えられる。特に当該期間がおおむね1年以上である場合には、他の要素を十分に吟味する。

(6)予定取引数量が妥当か

過去において行った同様の取引の数量を超過する部分については、他の要素を十分に吟味する。

さらに、「なお、金融商品会計基準(注)における『未履行の確定契約に係る取引』について、当該契約を解除する場合の対価が全く不要か又は軽微である場合は、上記と同様の検討を行い、ヘッジ対象となり得るか否かを判断する。」という点も付け足しています。

これを受けて、法人税基本通達2-3-53(キャッシュ・フローの変動に係る損失の範囲)ではヘッジ対象に係る損失は、「履行確定取引」又は「履行予定取引」に伴って生じるおそれのある損失でなければならないことが記載されおり、同通達2-3-54(履行確定取引及び履行予定取引の意義)でそれらの取引の定義を定めています。

4. ヘッジ会計の適用条件

ヘッジ会計を適用することで、結果として利益の繰延べが可能となります。しかし、ヘッジ会計がその趣旨に反して適用されると、利益操作による納税の回避が可能になるばかりか、財務諸表の利用者である投資家の判断を誤らせることになるため、ヘッジ会計の適用は厳格に審査されることになります。具体的には審査にあたって以下に述べる事前と事後の要件を満たさなければいけません。

事前要件とはヘッジ取引を行う前に満たしておくべき要件のことです。具体的には、ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、取引時に、次の①、②のいずれかによって客観的に認められることとされています。即ち、①「当該取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが文書により確認できること」、または②「企業のリスク管理方針に関して明確な内部規定および内部統制組織が存在し、当該取引がこれに従って処理されることが期待されること」のいずれかが事前に確認されている必要があります。

事後要件は、「ヘッジ取引時以降において、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益が、高い程度で相殺される状態、又はヘッジ対象のキャッシュ・フローが固定され、その変動が回避される状態が、引き続き認められることによって、ヘッジ手段の効果が定期的に確認されていること」とされています。

実際の会計処理や税務処理にあたっては、会計士や税理士、あるいは最寄りの税務署に確認をお願い致します。

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