5-1 クラック・スプレッド - 先物・オプション入門

クラック・スプレッド

原料を仕入れ、それを加工して製品を製造して、そのマージンで利益を上げることを目的としている企業にとって関心があるのは、原料と製品の個々の価格変動リスクよりも、むしろ両者の価格差の変動リスクです。この複数の価格の差を「スプレッド」といいますが、これらの企業は原料と製品のスプレッドを確定するため、スプレッドをヘッジする必要性が生じます。

原油を輸入し、これを精製してガソリンや灯油などの石油製品を製造・販売する石油会社などが、その典型例です。この原油と石油製品との価格差を取引するスプレッド取引を「クラック・スプレッド」といいます。クラック・スプレッドのポジションは、原油と石油製品の先物市場で、ほぼ同時に売り買い反対のポジションを建てることによって成立します。このクラック・スプレッドによって、石油会社は原油の仕入れ価格と製品の販売価格の価格差を固定化することができ、そこから得られるマージン・利益も確定することができるのです。

石油会社が行うクラック・スプレッドは、原料である原油の先物ポジションを買い建てて、石油製品の先物ポジションを売り建てるというオペレーションが一般的です(以下の具体例を参照)。しかしスプレッドが一時的に小さくなり過ぎて、通常のオペレーションでは利益を上げることができないと判断された場合には、現物のオペレーションを行わずに先物市場で通常と反対のポジションをとれば、スプレッドが正常な幅にまで回復した時点で取引を決済することによって通常のマージンを確保することができます。

クラック・スプレッドの具体例

原油を購入して、これを精製してガソリンを製造する石油会社を考えてみましょう。某年3月の原油価格が1キロリットル当たり45,000円、ガソリン価格は1キロリットル当たり60,000円であったとします。このときの両者の価格差である精製マージンは、15,000円/kl(=60,000円/kl-45,000円/kl=15,000円/kl)となりますが、この価格差は石油会社にとっては非常に魅力的な金額といえます。しかし、実際に原油を購入してガソリンを精製・販売するのは行楽シーズンの8月だとすると、その時点でこれだけの精製マージンが確保されるという保証はどこにもありません。そこでこの石油会社は、原油とガソリンの価格差がさらに拡大して精製マージンが増大する可能性はないとは言えませんが、現時点の価格差が十分魅力的であると判断して、現在の価格差を固定しようと、8月物の原油先物とガソリン先物のクラック・スプレッドを利用してヘッジをすることにしました。具体的には3月の時点で8月物の原油先物を1キロリットル当たり45,000円で買い、8月物のガソリン先物を1キロリットル当たり60,000円で売ることになります(以下、先物価格と現物価格は同じ動きをするという仮定の下で説明を進めます)。

仮に8月時点で原油価格が1キロリットル当たり43,000円、ガソリン価格は1キロリットル当たり55,000円になったとします。このとき、現物の精製マージンは3月時点の15,000円/klから12,000円/kl(=55,000円/kl-43,000円/kl)に縮小してしまいましたが、先物のポジションをそれぞれ差金決済すれば、原油先物で2,000円/klの損失(=43,000円/kl-45,000円/kl)、ガソリン先物で5,000円/klの利益(=60,000円/kl-55,000円/kl)が発生しますから、このクラック・スプレッド全体で3,000円/klの利益を得たことになります。これを先ほどの精製マージン12,000円/klに上乗せすれば、3月時点の精製マージン15,000円/klが確保できたことになります。 反対に、8月に3月の精製マージン15,000円/klよりも価格差が拡大した場合には、その拡大分がクラック・スプレッド全体で生じた損失となり、これが現物の精製マージンの増大分を相殺して、やはり15,000円/klという精製マージンが確保されることになります。


 

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