検定試験テキスト -農産物取引の基礎知識-

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第1章 とうもろこし・大豆の基礎知識


第1節 とうもろこし

第1項 とうもろこしの商品特性
  1. とうもろこしの歴史

    とうもろこしはコメ、小麦と並ぶ世界三大穀物の一つである。とうもろこしは「Corn(コーン)」と呼ばれるが、これは米国、カナダ、オーストラリアなどでの呼び名であり、その他の国では一般に「Maize(メイズ)」と呼ばれている。ちなみに、「コーン」はイギリスでは小麦のことであり、スコットランドやアイルランドではオーツ麦を指す。

    とうもろこしの起源については、中央アメリカや南米のアンデス地域が有力であるといわれている。メキシコでは約8万年前のものと思われるとうもろこしの花粉粒が発掘されており、ニューメキシコの洞窟からは5600年前のとうもろこしの穂軸が発見されている。中央アメリカでは紀元前3000年頃には栽培が始まったと考えられており、以来、様々な品種が開発されていったと考えられている。

    西洋諸国へは、1492年のコロンブス探検隊が西インド諸島で発見してスペインに持ち込み伝わったといわれている。ヨーロッパに持ち込まれたとうもろこしはフランスやイタリアに伝わり、さらにはアフリカにも伝播した、アジアへは、16世紀には中国に持ち込まれたといわれており、日本にも1579年にポルトガルから長崎に持ち込まれたといわれている。

  2. とうもろこしの品種・用途

    1. 品種

      とうもろこしはイネ科の一年生作物である。とうもろこしは、粒の形状や胚乳の性質により品種分類が行われ、代表的なものは以下の7種類である。

      品種 特徴・用途
      デントコーン
      (馬歯種)
      米国産の飼料用とうもろこしの品種である。
      粒の側面が硬質、中央先端が軟質で、成熟すると先端部が窪む。草丈は4メートル程度になり収穫収量が高く澱粉含有量も高い。主に飼料用途や澱粉用途に用いられる。
      フリントコーン
      (硬粒種)
      粒は完熟しても窪みができず丸みを帯びる。草丈は1メートル程度で、粒の外側は硬い角質で虫害を受けにくい。古くから中南米で栽培され、飼料・工業用途のほかメキシコのトルティーヤ等の食用にも用いられる。
      ポップコーン
      (爆裂種)
      スナック等の製菓用途に用いられる品種。
      フリントコーンの変種で粒の大部分が硬質で中央部に水分を含んだ軟質部があり加熱すると膨張して皮が破られる。
      スイートコーン
      (甘味種)
      澱粉が少なく糖分が多い。生食用や缶詰用など食用に用いられる。
      ワキシーコーン
      (糯種)
      中国原産で粒の表面がワックスをかけたような外観をしている。澱粉質がアミロペクチンから成り食品の基材等に用いられる。
      ソフトコーン
      (軟粒種)
      フラワーコーンとも称され粒が軟質澱粉から成り柔らかく製粉性が高い。南米高地の在来種であり食用に用いられる。
      ポッドコーン
      (有桴種)
      粒が頴(エイ)と呼ばれる衣に包まれており虫害に強い。

      このほかにも、品種改良された特殊品種として「高アミロース品種」や「高リジン品種」などがある。さらに、1996年以降、米国を中心に遺伝子組換え品種が導入されると、「除草剤耐性種(例:ラウンドアップレディ)」や「害虫耐性種(例:BTコーン)」、除草剤耐性と害虫耐性など複数の耐性を兼ね備えた「多重形質(スタック)品種」などの栽培が急速に広がった。2012年時点において、米国産とうもろこしの88%が遺伝子組換え品種であり、特に、複数の耐性遺伝子が組み込まれた「スタック品種」のシェアが拡大している。

    2. 用途

      とうもろこしの用途は「飼料用途」と「産業用途」に大別される。

      飼料用途としては、配合飼料原料や圧ペン飼料として用いられるほか、青刈りしたとうもろこしを発酵させてサイレージとしても用いられる。

      産業用途としては、異性化等の原料やダンボール製造に用いる糊として用いる澱粉の原料、さらに近年ではエタノールの原料としての利用が急増している。燃料用アルコールであるエタノールは自動車用ガソリンに混ぜて利用され、原油価格が高騰する中で、米国のエタノール政策の後押しもあり需要が拡大している。

      とうもろこし1ブッシェル(bu)から生産される「エタノール」と副産物である「ディスティラーズ・ドライド・グレインズ・ウィズ・ソリュブル(DDGS)」の生産量は以下のとおり。なお、DDGSはとうもろこしと同様に飼料として用いられる。

  3. とうもろこしの生育

    とうもろこしの生育期間は約120日であり、主要生産地である米国において、以下のような生育過程を経て収穫される。

    1. 播種(Planting)、発芽(Germination)

      米国では4月中旬から6月初旬にかけて作付けが行われる。理想的な発芽のための土壌温度は華氏60℃(摂氏15.5℃)であり、地温が華氏50℃(摂氏10℃)以下では発芽しないと言われている。作付けが遅れて6月以降にずれ込むと、十分成熟しないうちに初秋を迎え、早霜の被害を受ける危険性が高くなるので、5月中に作付けを完了することが望ましい。また、米国の農作業は大型機械による大規模な作業であることから、この時期に雨が多いとぬかるんで機械を畑に入れられない。従って発芽のための水分は欲しいものの、多すぎても障害になる。とうもろこしは作付け後数日で発芽する。

    2. タッセリング(Tasseling)

      発芽後4~5週間は植物としての成長段階で、根、茎、葉を成長させる。その後、6月初旬から下旬頃にタッセリング(雄花から穂を出すこと)が始まる。

    3. シルキング(Silking)

      タッセリング初期からさらに5~6週間後、時期としては7月中旬から8月初旬に、とうもろこしの種実部の先端から細長い絹のような糸が出てくる。この糸はめしべにあたるもので、一本一本が胚珠につながっており、受粉するとこの一本ごとの根元にとうもろこしの穀粒ができる。タッセリングとシルキングが完了して初めて受粉の態勢が整ったことになる。

    4. 受粉(Pollination)

      雄穂(タッセル)から放出された数百万個の花粉が、6~15メートル以内にあるめしべ(シルク)に付着して受粉する。成長段階で最も重要な時期である。とうもろこしにとっては最大のエネルギーを必要とし、十分な水分を要求する時期である。空中を飛散する花粉がめしべにうまく付着するには、適切な湿度が必要であり、摂氏38℃以上の高温になると受粉が失敗しやすい。ただし、一番暑い7月中旬から8月初旬に当たるので、関係者がもっとも神経質になる時期である。とうもろこしは受粉期間が極めて短いことが特徴として挙げられる。

    5. ミルクステージ(Milk Stage)

      受粉から2~3週間経過すると、穀粒がミルクのような状態になる。この時期に澱粉や蛋白を形成する。8月中旬頃から下旬にかけてこの段階を迎える。

    6. ドウステージ(Dough Stage)

      ミルク状の中身が徐々に柔らかい固まりになってゆく過程である。この時期に早霜に襲われると次の生育段階に進まなくなり、ソフトコーンになってしまう。8月下旬から9月中旬にかけてこの段階を迎える。早霜の危険は9月初旬に多い。

    7. デントステージ(Dent Stage)

      ドウステージから約3週間たつと実に窪みができる段階に入る。デントステージもドウステージ同様に固まっていく過程であるので、基本的には乾燥した天候が望ましい。この段階までくれば霜の被害は軽微である。9月中旬から10月上旬である。

    8. 成熟期(Mature)

      デントステージから約2週間でとうもろこしの成熟は完了する。時期的には10月上旬から11月初めで受粉から数えると8~9週間かかることになる。ただし、成熟しても穀粒の中の水分はまだ高く20%以上ある。

    9. 収穫期(Harvest)

      成熟後、10月半ばから11月半ばにかけて天候を見ながら収穫のタイミングを図ることになる。この時期の長雨がもっとも怖い。とうもろこしが倒れると大型のコンバインでは上手く収穫できない。また収穫する段階では水分が18%以下であることが望ましい。雨が続くと穀粒の乾燥も遅れることになり、水分が高いまま収穫すると高温の乾燥機にかけたり、保管中の品質の劣化が進むことになり、問題になりやすい。

第2項 とうもろこしの需給
  1. 世界のとうもろこし需給動向

    1. 生産量

      とうもろこし生産量は、とうもろこしの飼料需要及び産業用需要の拡大に牽引する形で増加している。

      世界のとうもろこし生産量(2011/12年度)は8億8,599万トンであり、この約20年間で約1.83倍に増加している。

      世界最大の生産国は米国(3億1,395万トン、世界シェア36%)、第2位中国(1億9,278万トン、同22%)、第3位ブラジル(7,300万トン、同8%)、第4位EU(6,812万トン、同8%)、第5位ウクライナ(2,284万トン、同3%)であり、上位5カ国で世界生産量の約75%を占めている。

      米国のシェアは、不作年を除くと40%を超えていたが、近年は中国、ブラジル、ウクライナなどの生産拡大によりシェアを落としている。特に、大干ばつに見舞われた2012/13年度は、生産量が2億7383万トン(同32%)まで落ち込む見通しである。

      表1 世界とうもろこし生産量推移

      単位:1,000トン

        2007/2008 2008/2009 2009/2010 2010/2011 2011/2012 2012/2013
      (見通し)
      2013/2014
      (予想)
      世界合計 795,149 800,256 825,449 834,210 885,987 862,707 962,827
      米国 331,177 307,142 332,549 316,165 313,949 273,832 355,330
      中国 152,300 165,914 163,974 177,245 192,780 205,600 211,000
      ブラジル 58,600 51,000 56,100 57,400 73,000 81,000 70,000
      EU 49,355 64,821 59,147 58,265 68,118 58,855 65,285
      ウクライナ 7,421 11,447 10,486 11,919 22,838 20,922 29,000
      インド 18,960 19,730 16,720 21,730 21,760 22,230 23,000
      アルゼンチン 22,017 15,500 25,000 25,200 21,000 26,500 26,000
      その他 155,319 164,702 161,473 166,286 172,542 173,768 183,212

      (出所)米国農務省(USDA), FAS, PSD Online

    2. 消費量

      とうもろこしの消費は、「飼料需要」と「食料・種子・産業用需要」に大別できる。これまでは、食肉需要の増加に伴う飼料需要に牽引されて消費量は増加してきたが、近年では、米国を中心にエタノール原料としての産業用需要拡大も相俟って増加している。

      世界のとうもろこし消費量(2011/12年度、輸出量・輸入量乖離修正後)は8億8,262万トンであり、この約20年間で約1.86倍に増加している。

      世界最大の消費国は米国(2億7,904万トン、世界シェア32%)、第2位中国(1億8,800万トン、同21%)、第3位EU(6,950万トン、同8%)、第4位ブラジル(5,050万トン、同6%)、第5位メキシコ(2,900万トン、同3%)となっているが、特に中国の増加が著しい。

      表2 世界とうもろこし消費量推移

      単位:1,000トン

        2007/2008 2008/2009 2009/2010 2010/2011 2011/2012 2012/2013
      (見通し)
      2013/2014
      (予想)
      世界合計
      (内飼料用)
      774,304 (499,075) 784,479 (482,280) 826,532 (491,429) 851,398 (502,824) 882,624 (507,153) 860,302 (516,712) 933,363 (565,236)
      米国 261,632 259,272 281,615 285,123 279,035 263,579 293,383
      中国 150,000 153,000 165,000 180,000 188,000 202,000 216,000
      EU 65,900 63,600 61,300 64,900 69,500 69,300 70,000
      ブラジル 42,500 45,500 47,000 49,500 50,500 53,000 55,000
      メキシコ 32,000 32,400 30,200 29,500 29,000 27,000 30,500
      インド 14,200 17,000 15,100 18,100 17,200 17,400 18,900
      日本 16,600 16,700 16,300 15,700 14,900 14,500 15,500
      その他 191,472 197,007 210,017 208,575 234,489 213,523 234,080

      注:「世界合計」は、世界飼料需要+世界食料・種子・産業用需要+輸出入量差分で算出
      「その他」は世界飼料需要と世界食料・種子・産業用需要の合計を基準に算出
      (出所)USDA, FAS, PSD Online

      (参考) 世界食肉生産量(牛肉、豚肉、鶏肉、上位5カ国)

      単位1,000トン
      牛肉 2009年 2010年 2011年 2012年
      米国 11,891 12,046 11,988 11,855
      ブラジル 8,935 9,115 9,030 9,307
      EU27 7,913 8,048 8,057 7,765
      中国 5,764 5,600 5,550 5,540
      インド 2,514 2,842 3,244 3,460
       
      単位:1,000トン
      豚肉 2009年 2010年 2011年 2012年
      中国 48,905 51,070 49,500 52,350
      EU27 22,434 22,571 22,866 22,630
      米国 10,442 10,186 10,331 10,554
      ブラジル 3,130 3,195 3,227 3,330
      ロシア 1,844 1,920 2,000 2,075
       
      単位:1,000トン
      鶏肉 2009年 2010年 2011年 2012年
      米国 15,935 16,563 16,694 16,621
      中国 12,100 12,550 13,200 13,700
      ブラジル 11,023 12,312 12,863 12,645
      EU27 8,756 9,202 9,320 9,510
      インド 2,550 2,650 2,900 3,160

      (出所)USDA, FAS, PSD Online

    3. 輸出量

      世界のとうもろこし輸出量(2011/12年度)は1億1,697万トンと、この約20年間で約2倍に増加している。

      世界最大の輸出国は米国(3,918万トン、世界シェア34%)、第2位ブラジル(2,434万トン、同21%)、第3位アルゼンチン(1,715万トン、同15%)、第4位ウクライナ(1,516万トン、同13%)となっており、上位4カ国で80%以上のシェアを有する極めて寡占的な構造となっている。

      米国は、とうもろこしの輸出市場では80%超のシェアを有する圧倒的な存在であったが、米国の輸出量の減少とブラジル、アルゼンチン、ウクライナの輸出量の増加により、その地位が低下している。特に、大干ばつに見舞われた2012/13年度は輸出量が1,858万トン(同20%)と大幅に減少する見通しである。

      図1:とうもろこし輸出量推移

      (出所)USDA, FAS, PSD Online

    4. 輸入量

      世界のとうもろこし輸入量(2011/12年度)は9,993万トンと、この約20年間で約1.7倍に増加している。

      世界最大の輸入国は日本(1,489万トン、世界シェア15%)、第2位メキシコ(1,117万トン、同11%)、第3位韓国(764万トン、同8%)、第4位エジプト(715万トン、同7%)となっている。

      注目すべきは中国であり、畜産需要の増加から急増する生産量を上回る勢いで消費量も増加しているため、その不足分を埋める形で輸入量が増加している。特に、2011/12年は523万トンを輸入しており、今後の動向が注目される。

      表3 世界とうもろこし輸入量推移

      単位:1,000トン

        2007/2008 2008/2009 2009/2010 2010/2011 2011/2012 2012/2013
      (見通し)
      2013/2014
      (予想)
      世界合計 98,203 82,255 89,626 92,311 99,910 97,960 106,430
      日本 16,614 16,531 15,971 15,648 14,892 14,412 15,500
      メキシコ 9,556 7,764 8,298 8,252 11,172 5,600 10,500
      韓国 9,311 7,188 8,461 8,107 7,636 8,174 9,000
      エジプト 4,151 5,031 5,832 5,803 7,154 5,000 5,700
      EU 14,051 2,457 2,758 7,385 6,113 11,300 8,000
      中国 41 47 1,296 979 5,231 2,702 7,000
      その他 44,479 43,237 47,010 46,137 47,712 50,772 50,730
  2. 米国産とうもろこし需給動向

    米国農務省(USDA)が提供している米国産とうもろこしに関する統計情報は、重量の単位がブッシェル(bu)、面積の単位がエーカー(acre)で提供されていることに注意する必要がある。

    米国産とうもろこし
    重量: 1ブッシェル(bu) = 25.4012kg、1t=39.367bu
    面積: 1エーカー(acre) = 0.4047ha

    表4 USDA World Agricultural Supply and Demand Estimates Report

    Corn(とうもろこし) 2007/08 2008/09 2009/10 2010/11 2011/12 2012/13
    Est
    2013/14
    Proi
      Million Acres(単位:百万エーカー)
    Area Planted(作付面積) 93.5 86 86.4 88.2 91.9 97.2 95.3
    Area Harvested(収穫面積) 86.5 78.6 79.5 81.4 84 87.4 87.2
      Bushels(単位:ブッシェル)
    Yield per Harvested Acre(単収 bu/acre) 150.7 153.9 164.7 152.8 147.2 123.4 160.4
      Million Bushels(単位:百万ブッシェル)
    Beginning Stocks(期初在庫) 1,304 1,624 1,673 1,708 1,128 989 824
    Production(生産量) 13,038 12,092 13,092 12,447 12,360 10,780 13,989
    Imports(輸入量) 20 14 8 28 29 162 25
     Supply, Total(供給 計) 14,362 13,729 14,774 14,182 13,517 11,932 14,837
    Feed and Residual(飼料・その他) 5,913 5,205 5,125 4,795 4,557 4,333 5,200
    Food, Seed & Industrial(食品・種子・産業用) 4,387 4,993 5,961 6,426 6,428 6,044 6,350
    Ethanol & by-products(内、エタノール・副産物) 3,049 3,677 4,591 5,019 5,000 4,648 4,900
     Domestic, Total(国内消費合計) 10,300 10,198 11,086 11,221 10,985 10,377 11,550
    Exports(輸出量) 2,437 1,858 1,980 1,834 1,543 731 1,400
     Use, Total(需要量 計) 12,737 12,056 13,066 13,055 12,528 11,108 12,950
    Ending Stocks(期末在庫) 1,624 1,673 1,708 1,128 989 824 1,887

    (出所)USDA, OCE, WASDE(2013年11月)より作成

    1. 供給

      1. 作付面積・収穫面積

        米国産とうもろこしの作付面積は、1932/33年の1億1,302万エーカー(4,574万ha)をピークに1960年代まで減少傾向にあったが、その後増加に転じ、2012/13年度は9,716万エーカー(3,932万ha)まで拡大している。収穫面積は干ばつ早霜等で減少することもあるが、それ以外にも毎年700万エーカー程度はサイレージ目的に供されるため、収穫率は85%から92%程度にとどまっている。

        図2:米国産とうもろこし作付面積・収穫面積

        (出所)USDA, ERS, Feed Grain Yearbook Tables

      2. 生産量・単収

        米国産とうもろこしの生産量は、一貫して増加傾向にあり、2009/10年度には史上最高の130億9,100万bu(3億3,253万トン)を記録している。2012/13年度は1930年代以来最悪といわれる大干ばつの影響で大減産となったが、作付面積が高水準であったことから107億8,030万ブッシェル(2億7,382万トン)と100億bu台は確保している。

        作付面積が1926/27年度と同水準でありながら、生産量が6倍に増加した理由は単収の飛躍的な向上にある。単収は1926/27年度に25.7bu/エーカー(1.61トン/ha)であったが、2009/10年度には164.7bu/エーカー(10.34トン/ha)に増加しており、干ばつの影響で大幅に減少した2012/13年度でも123.4bu/エーカー(7.75トン/ha)を維持している。この要因としては、化学肥料や農薬の開発・使用、農業経営における機械化の進展による収穫・保管・流通の各段階でのロスの減少、そして遺伝子組換え品種を中心とする種子の改良が挙げられる。

        図3:米国産とうもろこしの生産量及び単収

        (出所)USDA, ERS, Feed Grain Yearbook Tables

      3. 生産地域・州別生産量

        米国産とうもろこしの主要産地は、中西部の「コーンベルト」と呼ばれる地域である。コーンベルトとは、米国農務省の経済調査局の定める生産地域分類では、イリノイ州、インディアナ州、アイオワ州、ミズーリ州、オハイオ州とされている。ただし、一般的には、同局が五大湖地域(レイクステイツ)に分類しているミシガン州、ミネソタ州、ウィスコンシン州の一部、北大平原地域(ノーザンプレイン)に分類しているカンザス州、ネブラスカ州、サウスダコタ州、ノースダコタ州などを含むとされることが多い、

        州別生産量では、アイオワ州、イリノイ州、ネブラスカ州、ミネソタ州の順となっており、この4州で全米生産量の60%弱を占めている。

        表5 全米及び州別生産量(主要州)

        単位:1,000bu

          2008 2009 2010 2011 2012 2011年
        シェア
        全米生産量 12,101,238 13,091,862 12,446,865 12,359,612 10,780,296 100%
        アイオワ州 (IA) 2,188,800 2,420,600 2,153,250 2,356,400 1,876,900 19%
        イリノイ州 (IL) 2,130,100 2,053,200 1,946,800 1,946,800 1,286,250 16%
        ネブラスカ州 (NE) 1,393,650 1,575,300 1,469,100 1,536,000 1,292,200 12%
        ミネソタ州 (MN) 1,180,800 1,244,100 1,292,100 1,201,200 1,374,450 10%
        インディアナ州 (IN) 873,600 933,660 898,040 839,500 596,970 7%
        サウス・ダコタ州 (SD) 585,200 706,680 569,700 653,400 535,300 5%
        ウィスコンシン州 (WI) 394,560 448,290 502,200 517,920 399,300 4%
        オハイオ州 (OH) 421,200 546,360 533,010 508,760 448,950 4%
        カンザス州 (KS) 486,420 598,300 581,250 449,400 379,200 4%
        ミズーリ州 (MO) 381,600 446,760 369,000 349,980 247,500 3%
        ミシガン州 (MI) 295,320 309,320 315,000 335,070 317,870 3%
        ノース・ダコタ州 (ND) 285,200 200,100 248,160 216,300 422,120 2%
        ケンタッキー州 (KY) 152,320 189,750 152,520 180,700 104,040 1%
        コロラド州 (CO) 147,960 151,470 182,710 172,900 134,330 1%
        テキサス州 (TX) 253,750 254,800 301,600 136,710 201,500 1%

        (出所)USDA, NASS, Crop Production 2012 Summary

        図4:米国産とうもろこし生産地域

        (出所)USDA, OCE, Major World Crop Areas and Climate Profiles

    2. 需要

      米国農務省は、「合計需要(use total)」を「国内消費(Domestic, Total)」と「輸出(Exports)」の2項目に大別し、さらに「国内消費」を、「飼料・その他(Feed and Residual)」と「食品・種子・工業用(Food, Seed & Industrial)」の2分類、さらに2003/04年度からは「食品・種子・工業用」の内訳項目として、「エタノール及び副産物(Ethanol & by-products)」を設けてデータを提供している(参照:表4)

      米国産とうもろこしの合計需要は、右肩上がりで増加し、2009/10年度には130億bu(3億3,189万トン)を記録した。しかし、大干ばつに見舞われた2012/13年度は需要量も111億bu(2億8,216万トン)に落ち込んでいる。

      増加する需要の牽引役は、従来は「飼料・その他」需要と「輸出」需要であったが、2000年代半ば以降、エタノールを中心とする「食品・種子・工業用」需要に移行している。

      図5:米国産とうもろこしの需要推移

      (出所)USDA, ERS, Feed Grains Database

      1. 飼料・その他

        米国は、牛肉及び鶏肉生産では世界第一位、豚肉では世界第二位の畜産大国であり、畜産物の餌としての「飼料・その他」需要は国内消費量の50%以上のシェアを占める最大の需要用途であった。しかし、2006/07年にシェアが50%を割り込み、2009/10年には「食品・種子・工業用」に抜かれ、さらに2010/11年には「エタノール及び副産物」に抜かれている。

        需要量も、2004/05年度の61億3,500万bu(1億5,584万トン)をピークとして、2011/12年度は45億5,700万ブッシェル(1億1,575万トン)へと減少している。食肉生産量が安定しているにもかかわらずとうもろこしの飼料需要が減少している要因として、エタノール生産の副産物であるDDGSがとうもろこしの飼料需要を8億buから9億bu代替したことや*、とうもろこしの高値を嫌気して飼料用小麦に需要がシフトしたことなどが挙げられる。

        *(参考)Agricultural Marketing Resource Center, “Estimated U.S. Dried Distillers Grains with Solubles (DDGS) Production & Use”

      2. 食品・種子・工業用(含む「エタノール及び副産物」)

        「食品・種子・工業用(含む「エタノール及び副産物」)」需要は、「飼料・その他」需要を抜きシェア50%を超える最大の需要用途となっている。

        需要量は右肩上がりで増加しており、1980/81年の約6億5,900万bu(約1,675万トン)から2011/12年には約64億2,800万bu(約1億6,328万トン)と約30年間で約10倍の規模に拡大している。

        米国農務省は、「食品・種子・工業用」の内訳を、「異性化糖」、「ブドウ糖」、「スターチ」、「燃料用アルコール(エタノール)」、「飲料用・工業用アルコール」、「シリアルその他」、「種子」の7分類にして、それぞれの使用量を公表している。これによれば、1980年代は「異性化糖」の使用量が急増して最大の使用用途であったが、1990年代以降はエタノール向け使用量が急拡大して現在では「食品・種子・工業用」の」約78%のシェアを占めている。2011/12年は約50億bu(約1億2,700万トン)のとうもろこしがエタノールの原料として用いられている。

        図6:米国産とうもろこしの「食品・種子・工業」用需要

        (出所)USDA, ERS, Feed Grain Yearbook Tables

      3. 輸出

        米国産とうもろこしの輸出量は、1970年代以降、旧ソ連の穀物大量輸入などもあって急増し、1979/80年度には2億4,015万bu(6,100万トン、世界シェア84%)を記録するなど、世界とうもろこし輸出市場で圧倒的な地位を占めていた。2007/08年度には2億4,374万bu(6,191万トン)と史上最大の輸出量を記録するものの、南米のブラジルやアルゼンチン、東欧のウクライナなど競合国の輸出増加もあり、世界シェアは63%にとどまった。これ以降、世界シェアは減少を続け、2011/12年度には50%を割り込んでいる。2012/13年は大干ばつによる減産と史上最高値($8.4375/bu)の影響で輸出量が前年比半分以下の7億3,100万bu(1,856万トン、世界シェア19%)程度になる見通しであり、長く君臨してきた世界最大の輸出国の座をブラジルに奪われる見込みである。もっとも、2013/14年度は再び米国が世界最大のとうもろこし輸出国に返り咲くものと予想されているが、世界シェアの低下傾向は今後も継続するものと思われる。

        米国産とうもろこしの最大の輸出相手国は全体の30%を占める日本であり、2011/12年は1,150万トンを輸出している。他にも、メキシコ、韓国、台湾などが仕向け先であるが、2011/12年には中国向けに500万トンを超えるとうもろこしを輸出しており、今後の動向が注目される。

        図7:米国産とうもろこしの輸出量と世界シェア

        (出所)USDA, FAS, PSD Online

        図8:米国産とうもろこし仕向地別輸出量及びシェア

        (出所) USDA, ERS, Feed Outlook August 2013

    3. 期末在庫

      米国産とうもろこしの需給のミスマッチは期末在庫に反映される。期末在庫量は豊作で積み上がり、凶作で取り崩されることから、変動が大きい。1980/81年度以降、最高は1986/87年度の48億8,169万bu(1億2,400万トン、期末在庫率66%)、最低は1995/96年度の4億2,594万bu(1,082万トン、同5.0%)となっている。大干ばつに見舞われた2012/13年度も8億2,400万bu(2,093万トン、同7.9%)と低水準になる見通しである。

      期末在庫率(Stock to use ratio)は期末在庫量を合計需要で除したものであり、期末(8月末)の在庫が年間需要の何%をカバーできるか表す指標である。例えば、期末在庫率が10%とすると、8月末の在庫は36.5日の需要を賄う計算になる。米国産とうもろこしの期末在庫率の適正水準は15%から20%であり、15%を下回ると逼迫状況と考えられる。

      図9:米国産とうもろこしの期末在庫と期末在庫率

      (出所)USDA, FAS, PSD Online

  3. 主要生産国のとうもろこし需給動向

    1. 中国

      中国は世界第2位のとうもろこし生産国であり、2011/12年度の生産量は1億9,278万トンである。とうもろこし増産の背景には、価格面で競合作物である大豆や綿花よりも優位であることや、国内の畜産需要の拡大に伴い飼料需要が急増していることが挙げられる。なお、2009/10年以降は輸入量も増加している。主な生産地域は東北部の黒龍江省、吉林省、遼寧省であり、この3省で40%弱を占めている。その他、北部の河北省、山東省、山西省、河南省などでも多く生産されており、この東北3省に北部4省を加えた7省で約70%を占める。作付けは4月から5月にかけて行われ、10月から11月にかけて収穫される。

      表6 中国におけるとうもろこしの需給動向

        収穫面積 単収 生産量 輸入量 輸出量 飼料その他 総消費量 期末在庫
      (百万ha) (t/ha) (百万t)
      2008/09 29.9 5.6 165.9 0.0 0.2 108.0 153.0 51.2
      2009/10 31.2 5.3 164.0 1.3 0.2 118.0 165.0 51.3
      2010/11 32.5 5.5 177.2 1.0 0.1 128.0 180.0 49.4
      2011/12 33.5 5.8 192.8 5.2 0.1 131.0 188.0 59.3
      2012/13 35.0 5.9 205.6 2.7 0.1 144.0 202.0 65.6

      (出所)USDA, FAS, PSD Online

    2. ブラジル

      ブラジルは世界第3位のとうもろこし生産国であり、2011/12年度の生産量は7,300万トンである。以前は国内需要を満たすための生産であったが、高単収のハイブリッド種子の導入などにより生産量が増加して輸出余力が増し、現在では米国に次ぐ世界第2位のとうもろこし輸出国になっている。ブラジルは、とうもろこしを年2回収穫することが可能であり、ファーストクロップの作付けは10月から11月にかけて行われ、翌年の3月から4月にかけて収穫される(ただし、ブラジル北部では12月から1月にかけて作付けされて5月から6月に収穫される)。一方、セカンドクロップは2月に作付けが行われ、6月から7月にかけて収穫される。主な生産地域は、パラナ州、マト・グロッソ州、ミナスジェライス州、リオグランドスル州などであり、この4州で約60%を占めている。

      表7 ブラジルにおけるとうもろこしの需給動向

        収穫面積 単収 生産量 輸入量 輸出量 飼料その他 総消費量 期末在庫
      (百万ha) (t/ha) (百万t)
      2008/09 14.1 3.6 51.0 1.1 7.1 38.5 45.5 12.1
      2009/10 12.9 4.3 56.1 0.4 11.6 40.0 47.0 10.0
      2010/11 13.8 4.2 57.4 0.8 8.4 42.5 49.5 10.3
      2011/12 15.2 4.8 73.0 0.8 24.3 43.0 50.5 9.2
      2012/13 15.8 5.1 81.0 0.8 22.0 45.0 53.0 16.0

      (出所)USDA, FAS, PSD Online

    3. アルゼンチン

      アルゼンチンは、実質的に世界第4位のとうもろこし生産国であり、2011/12年度の生産量は2,100万トンである。国内消費量が少なく、生産量の約70%が輸出されている。主な生産地域はコルドバ州、ブエノスアイレス州、サンタフェ州であり、この3州で80%を超えている。作付けは9月から11月にかけて行われ、3月から5月にかけて収穫される。

      表8 アルゼンチンにおけるとうもろこしの需給動向

        収穫面積 単収 生産量 輸入量 輸出量 飼料その他 総消費量 期末在庫
      (百万ha) (t/ha) (百万t)
      2008/09 2.5 6.2 15.5 0.0 10.3 4.5 6.4 1.0
      2009/10 3.0 8.3 25.0 0.0 16.5 5.0 6.9 2.6
      2010/11 3.8 6.7 25.2 0.0 16.3 5.3 7.3 4.1
      2011/12 3.6 5.8 21.0 0.0 17.1 4.8 7.0 1.0
      2012/13 4.0 6.6 26.5 0.0 19.0 5.0 7.6 0.9

      (出所)USDA, FAS, PSD Online

    4. ウクライナ

      ウクライナは、2011/12年度のとうもろこし生産量が前年比2倍の2,284万トンになり、不作であったアルゼンチンを上回った。この背景にはとうもろこし価格の高騰により収益性が高かったことと、冬穀物の冬枯れ被害によりとうもろこしが再播種された事情がある。ウクライナにおけるとうもろこしの生産量の増加傾向は引き続き継続するものと予想されている。

      生産量の増加が国内消費量を上回っているため、余剰分が輸出に振り向けられている。2011/12年の輸出量は1,516万トンであり、主な仕向け地はエジプト、イラン、イスラエルなどである。

      なお、2012年に中国がウクライナに30億ドルの信用供与をしており、その見返りとしてとうもろこしで現物返済を受けることや、とうもろこしの品質面に関する事項で合意した。中国側は、ウクライナ産とうもろこしに対して最大で600万トンの輸入割当枠を与える計画ともいわれている*2。主な生産地域はドニプロペトロウシク州、チェルニウツィー州、ボルタバ州、チェルカースィ州、オデッサ州などである。作付けは4月頃行われ、10月頃収穫される。

      *2 海外食料需給レポート2012年12月、農林水産省

      表9 ウクライナにおけるとうもろこし需給動向

        収穫面積 単収 生産量 輸入量 輸出量 飼料その他 総消費量 期末在庫
      (百万ha) (t/ha) (百万t)
      2008/09 2.4 4.7 11.4 0.0 5.5 5.1 5.9 0.7
      2009/10 2.1 5.0 10.5 0.0 5.0 5.0 5.7 0.7
      2010/11 2.6 4.5 11.9 0.0 5.0 5.4 6.5 1.1
      2011/12 3.5 6.4 22.8 0.0 15.2 6.5 7.8 1.1
      2012/13 4.4 4.8 20.9 0.0 12.7 6.8 8.1 1.2

      (出所)USDA, FAS, PSD Online

  4. 日本のとうもろこし需給動向

    1. 供給

      日本はとうもろこしのほぼ100%を外国からの輸入に依存している。年間輸入量は、従来約1,600万トン超(内訳:飼料用1,200万トン弱、コーンスターチ用約330万トン、その他食品用・工業用130万トン)といわれてきたが、2010年度以降、飼料用輸入が1,100万トンを割り込んだこともあり、2012年は約1,470万トンまで減少している。国別シェアについて、従来は米国産のシェアが90%を超えていたが、米国産が高値で推移したこともあり、価格的に優位なブラジル、アルゼンチン、ウクライナなどからの輸入が増加して、2012年には60%強にまで減少している。

      とうもろこしは「関税割当品目」である。国産いもでん粉の保護を目的として、一定の関税割当数量(枠内)に限り無税又は低い一次税率を適用し、この数量を超える分(枠外)には高い二次税率が適用されている。コーンスターチ、コーンフレーク、エチルアルコール、蒸留酒などの製造に使用するとうもろこしの枠内税率は無税であるが、枠外税率は「50%又は12円/kgのうちいずれか高い税率」とされている。

      飼料用とうもろこしについては、飼料の低廉かつ安定的供給を図るために、関税定率法第13条にもとづき、税関長の承認を受けた配合飼料工場(承認工場)において一定の規格を満たす配合飼料に使用されるものについては無税で輸入することができる。 畜産農家の自家配合飼料用途で用いる単体丸粒とうもろこしも、関税割当制度の割当てを受けた者は割当分について無税で輸入することができる。

      表10 日本におけるとうもろこし輸入量

      単位:万トン

      輸入合計 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度
      1,636 1,621 1,605 1,531 1,473
      用途別 飼料用 1,172 1,159 1,113 1,085 1,028
      スターチ用 333 310 328 329 310
      その他工業用等 130 152 164 117 135
      国別(全用途) 米国 1,610 1,522 1,444 1,365 923
      ブラジル 0 38 51 75 373
      アルゼンチン 9 21 87 44 65
      ウクライナ 3 33 12 29 78
      その他 13 6 11 19 35
      国別(飼料用) 米国 1,150 1,077 978 931 540
      ブラジル 0 35 47 67 324
      アルゼンチン 9 14 68 41 62
      ウクライナ 3 29 11 28 74
      その他 10 4 9 17 28

      (出所)財務省貿易統計

    2. 需要

      1. 飼料需要

        とうもろこしは、飼料用に約1,000万トン超(輸入量の約70%)が用いられている。日本の配合・混合飼料の生産量は約2,400万トンで安定して推移しており、主原料であるとうもろこしのシェアは約47%である。ただし、とうもろこし使用量及び使用比率はとうもろこしの高値の影響もあって減少傾向にあり、代替原料として飼料用小麦やDDGSの使用量が増加している。

      2. コーンスターチ用需要

        とうもろこしは、コーンスターチ用に約310万トンから330万トン(輸入量の約20%)が用いられている。コーンスターチはとうもろこしから作られるでん粉であり、年間需要は約250万トンである。コーンスターチは、異性化液糖などの糖化原料、ビールや水産練り製品などの食品用、段ボール・製紙・繊維などの工業用、医薬用などの用途で用いられている。なお、ビール用等の食品用に用いられるコーンスターチの原料には非遺伝子組換えとうもろこしが使用されている。

第3項 とうもろこしの価格変動要因
  1. シカゴのとうもろこし先物価格

    とうもろこしの国際的な指標価格はシカゴのCMEグループに属するシカゴ商品取引所(CBOT)で形成されている。したがって、シカゴのとうもろこし先物価格の動向は東京商品取引所のとうもろこし先物価格にも大きな影響を与えている。

    CBOTのとうもろこし先物の限月構成は、3月限、5月限、7月限、9月限、12月限となっており、12月限が新穀限月に位置づけられている。一方、東京商品取引所の限月構成は、1月限、3月限、5月限、7月限、9月限、11月限であり、1月限が新穀限月に位置づけられている。

    図10はCBOTとうもろこし先物価格(期近)の過去50年の推移であるが、1970年代初頭と2000年代中旬以降の2回にわたってとうもろこし相場の価格水準が大きく切り上がっている。

    CBOTとうもろこし先物価格は、需給要因、天候要因、テクニカル要因などにより変動する。

    図10:CBOTとうもろこし先物価格(期近)推移

    (出所)Bloomberg

  2. 需給要因

    農産物価格は、「需給に始まり需給に終わる」といわれるように、需給バランスが価格の基調を変化させている。

    とうもろこしの需要は、人口増加、新興国等の畜産需要拡大、米国のエタノール需要拡大などの要因で増加基調にある。供給も、堅調な需要に牽引されて、生産地・生産面積の拡大や遺伝子組換え品種の導入による単収増加によって増産基調にある。ただし、需要サイドは安定的な増加傾向にあるのに対して、供給は天候に左右されて大きく変動するので需給のミスマッチが発生する。需給のミスマッチは在庫の増減に反映され、在庫の増減はとうもろこし価格に直接的な影響を与える。豊作による需給緩和と在庫増は売りを誘って値下がりし、不作による需給逼迫と在庫減は先高期待から買いを誘って値上がりする。他方、価格の高騰は需要の抑制と生産者の供給意欲を促し、価格の下落は需要を喚起して生産者の供給意欲を減退させる。このような「価格メカニズム」を通して需給バランスは調整される。

    1. 米国の需給

      米国は世界最大のとうもろこし生産国・輸出国であり、その動向はとうもろこしの国際需給と国際とうもろこし価格に大きな影響を与えている。米国のとうもろこし価格は、供給主導の「天候相場」と需要(在庫)主導の「需給相場」に分けられる。

      1. 天候相場

        「天候相場」は、4月から9月までの6ヶ月間にわたる「供給主導の相場」である。前年に収穫されたとうもろこしの在庫状況を踏まえ、その年の生産量を予測しながら将来の供給動向と価格を予想する。この期間は、天候の変化に一喜一憂して、相場展開は荒くなりやすい。特に、前年が不作で期末在庫率が低下しているときほど、その傾向が強い。

        とうもろこし生産量は、「収穫面積×単収」で計算されるため、その年の生産量を予測するにあたって2つの材料に注目する必要がある。

        1. 作付面積の動向

          作付面積を左右するのは、作付け時の「とうもろこし価格」、「競合農産物との価格関係(とうもろこし・大豆比価等)」、「天候」である。米国の農家は地力維持を目的とした輪作体系を前提としながらも、収益極大化のためにとうもろこしを作付けしたがる傾向が強い。種子、肥料、農薬などの投入コストは高いが、単収が多いために、天候に恵まれれば生産量増と収入増が期待できるからである

          米国中西部のコーンベルトでは、とうもろこしの作付けは4月下旬から開始されて5月中旬には概ね終了する。この時期、遅霜や降雨によって作付けが遅れると、生産者は作付けが早いとうもろこしを諦めて大豆にシフトする傾向があるので、とうもろこしの作付面積は減少する。ただし、最近では農機具の大型化による作付け能力向上により、短期間での作付け進捗が可能になったため、以前ほど作付け時の天候は重要視されなくなっている。

          米国農務省は、とうもろこしの作付けに関する情報として、3月末から6月末にかけて「作付意向面積(3月末)」、「作付進捗状況」、「確定作付面積(6月末)」を公表している。(詳細:第4節 米国農務省報告)

        2. 単収を左右する作柄確定までの天候の動向

          とうもろこしの単収は、遺伝子組換え品種の導入等によって増加したが、依然として天候が与える影響は大きい。例えば、大干ばつに見舞われた2012年の単収は前年の147.2bu/エーカーから123.4bu/エーカーへ激減している。とうもろこしの単収増加・減少の条件は以下のとおりである。

          単収増加の条件 単収減少の条件
          ①作付けが早期に終了すること。
          ②日照に恵まれて勢いよく草丈が伸び、葉が茂ること。
          ③受粉期(7月)に十分な降雨があること。
          ④受粉後の成熟期に暖かい日が続くこと。
          ①低温や長雨で作付けが遅れること。
          ②日照不足で育ちが悪いこと。
          ③受粉期(7月)に雨が降らず高温になること。
          ④受粉後の成熟期に低温の被害を受けること。

          米国農務省は、とうもろこしの生育ステージごとの情報として、4月から11月末にかけて「生育状況」を公表している。(詳細:第4節 米国農務省報告)

      2. 需給相場

        「需給相場」は、とうもろこしや大豆の収穫がピークを迎える10月半ばから4月の新穀の作付け期までの6ヶ月間にわたる「在庫主導の相場」である。収穫が完了して生産量が固まるので、この時期は、収穫された新穀が4月までにどれだけ「消費」、「輸出」され、その結果「在庫水準」がどのように変動するかが相場展開のポイントとなる。

        1. 飼料需要

          飼料需要には、配合飼料用と畜産農家の自家消費用があるために正確に把握することは難しい。そのため、家畜の飼養頭数や食肉生産量などから推測することになる。これらの統計情報については、米国農務省が「肥育牛頭数(Cattle on Feed、毎月)」、「豚頭数(Hogs and Pigs、3月、6月、9月、12月)」、「家禽食肉処理数(Poultry Slaughter、毎月)」を公表している。ただし、とうもろこし価格が高いと、飼料用小麦やDDGSに需要が置き換わる可能性があることに留意する必要がある。

        2. エタノール需要

          下記「4. エタノール需要」参照。

        3. 輸出需要

          米国は世界最大のとうもろこし輸出国である。輸出需要は需要項目の大きな構成要素として、長期の動向とそれによる米国内在庫の変化という点で注目されている。前年比で見た輸出量の増減や、中国等の大口輸出成約のニュースに価格が反応することもあるので、米国農務省が公表している「週間輸出検証高」や「週間輸出成約高」を確認する必要がある。(詳細:第4節 米国農務省報告)

        4. 在庫動向

          全体的なとうもろこし在庫の推移は、米国農務省が四半期ごとに公表している「全米穀物在庫」で確認できる。8月末の期末在庫については、米国農務省が毎月公表している「世界農産物需給予測」で見通しを確認することができる。(詳細:第4節 米国農務省報告)

          期末在庫を消費量で除した「期末在庫率(Stock to use ratio)」は重要な判断材料であり、とうもろこしは15%から20%が適正水準で、15%を下回ると逼迫状況にあるといわれている。

    2. 新興国の需給

      世界第2位のとうもろこし生産国・消費国である中国の需給動向に注目する必要がある。中国は、とうもろこしの自給政策を掲げており、国内でも増産を図っているが、旺盛な畜産需要に追いつかず、輸入量が増加している。WTO協定に基づき、中国が低関税率で輸入できる関税割当枠は720万トンであるが、国内価格が輸入価格より高い状況が続くと、輸入量がこの枠を超える可能性がある。一方、中国で「鳥インフルエンザ」や「口蹄疫」が発生すると、とうもろこしの飼料需要が減少するので価格下落材料になる。

      国際とうもろこし市場における米国の輸出シェアは、近年、南米のブラジルとアルゼンチン、東欧のウクライナが輸出拡大を受けて低下している。競合国の出現が米国産とうもろこしの輸出量と価格にどのような影響を及ぼすか注目される。

    3. 日本の需給

      日本の配合・混合飼料生産量は安定して推移しているが、とうもろこし使用量は減少傾向にある。とうもろこし価格が値上がりすると、代替原料である小麦やDDGSに置き換わる傾向にある。

      米国産とうもろこしは極めて汎用性が高く、使い勝手が良いとしてユーザーから好まれている。しかし、2012年の大干ばつによる価格高騰の結果、価格的に優位なブラジル産、アルゼンチン産、ウクライナ産にシェアを奪われている。今後もこの傾向が続くのかどうか注目される。

  3. 天候要因

    とうもろこしは天候に極めてセンシティブな農産物である。生産量を左右する重要な生育ステージである「受粉期」が約1週間と限られており、この間、干ばつに見舞われると深刻なダメージを受ける。とうもろこしの生育を占う上で重要なポイントは以下のとおり。

    1. 播種の遅れ

      米国では、最も重要な生育ステージである「受粉期」が高温乾燥の8月に当たらないよう、また9月初旬に発生することがある早霜に見舞われても被害を軽微に食い止めるよう、播種作業を5月20日までに終了させることが望ましいとされている。低温や降雨などで、この日までに作付けが終了しないと、1日あたり1buの割合で潜在単収能力が低下すると言われている。好天に恵まれて作付けが早く終了した年は豊作になることが多く、逆に低温や降雨で作付けが遅れた年は不作になることが多い。

    2. 降水量

      とうもろこしは、6月から8月の3ヶ月で300ミリメートルの降水量が必要といわれており、特に7月中旬の「受粉期」の1週間とその前後1週間の計3週間は一生のうちで最も多くの水分を必要とする。この間は、1日当たり1/4インチ(約10ミリメートル)の降水量があることが望ましい。

    3. 積算温度(GDD)

      積算温度(グローイング・ディグリー・デイ)は、気温と生育を関連付ける指標として用いられ、以下の数式から求められる日々のGDDを累積したものである。とうもろこしが完熟に至るまでの生長に必要な積算温度は品種や場所によって異なるが、コーンベルトで大体2,500GDDから3,000GDD程度といわれている。

  4. エタノール需要

    米国のエタノール政策導入は、世界のとうもろこし市場を構造的に変化させたといわれている。

    米国は、安全保障上の観点から、エネルギー自給化政策を推進する目的で「2005年エネルギー政策法(Energy policy act of 2005)」を成立させた。これにより、バイオエタノールやバイオディーゼルなどの再生可能燃料の使用を義務付ける「再生可能燃料基準(RFS)」が設定され、アメリカ国内で販売されるガソリンに含まれるバイオ燃料の使用量を2006年の40億ガロン(1,514万キロリットル)から2012年までに年間75億ガロン(2,839万キロリットル)まで拡大することが義務化された。その後、2007 年に成立した「2007年エネルギー自立・安全保障法(Energy Independence and Security Act of 2007)」では、バイオ燃料の使用量を2015年には 205億ガロン(内、とうもろこしを原料とするエタノールなどの伝統的バイオ燃料は150億ガロン)まで拡大することが定められた。

    エタノール生産量は、原油価格の高騰もあって順調に拡大しており、2011年には約140億ガロン、とうもろこし使用量も50億1100万buに達している。しかし、2011年末の財政上の理由によるエタノールへの税控除(45セント/ガロン)廃止や、大干ばつによる2012年産とうもろこしの価格高騰により、2012年は減少している。米国再生燃料協会(RFA)によれば、2012年のエタノール生産量は133億ガロン、2013年1月時点のエタノール工場数は211工場(生産能力147億ガロン)としている。

    米国のとうもろこし生産量に占めるエタノール需要は、2006年に輸出需要、2010年には飼料需要を上回り、現在では40%を超える最大の需要用途となっている。2011年末の税控除廃止後も、原油価格が60ドル以上であれば採算が取れるとの試算もあり、今後もエタノール生産の拡大余地は大きい。

    エタノール需要拡大に伴い、2007年以降、とうもろこし価格は高い状態が続いている。エタノール需要の増加は、とうもろこし価格の下支えになるため、とうもろこし価格を占う上で、米国のエタノール生産量及びとうもろこし使用量を把握する必要がある。これらの情報は米国再生燃料協会(RFA)のホームページで確認することが出来る。

    図11:米国におけるエタノール生産量及びとうもろこし使用量

    (出所)USDA “Agriculture’s Supply and Demand for Energy and Energy Products”

    図12:米国再生燃料協会(RFA)のホームページ

    (出所)http://ethanolrfa.org/

    エタノールの増産の結果、副産物であるDDGSの生産量も増加している。Agricultural Marketing Resource Centerの試算によれば、DDGSの生産量は2008/09年の3,153万トン(とうもろこし換算8億4,200万ブッシェル)から2011/12年には4,259万トン(同10億9,700万ブッシェル)に増加しており、その分、とうもろこしの飼料需要及び輸出用需要が侵食されていることにも留意する必要がある。

    表11 エタノール及びDDGS生産量とDDGSのとうもろこし代替量


    2008/09 2009/10 2010/11 2011/12
    とうもろこし生産量(百万bu) 12,092 13,092 12,447 12,358
    エタノール用使用量(百万bu) 3,709 4,568 5,019 5,011
    DDGS生産量百万(t) 31.53 38.83 42.66 42.59
    (とうもろこし換算(百万bu)) (842) (1,051) (1,161) (1,097)
    内、輸出向け代替量 149 209 248 263
    内、飼料向け代替量 694 842 913 834

    (出所)Agricultural Marketing Resource Center, “Estimated U.S. Dried Distillers Grains with Solubles (DDGS) Production & Use”

  5. 為替及びフレート

    1. 輸入とうもろこし換算価格

      (CBOTとうもろこし+C&Fプレミアム)×ブッシェル/トン換算×為替×CIF係数

      上記は、日本が米国からとうもろこしを輸入する際の換算式であるが、2013年3月22日時点のデータ(下記①~⑤)を用いると以下のように計算できる。
      ① CBOTとうもろこし:$7.3/bu
      ② C&Fプレミアム(FOBプレミアム+フレート):$2.15/bu(=$1.35+$0.8)
      ・FOBプレミアム:$0.8/bu
      ・フレート:$54/ロングトン(1ロングトン≒40bu)=$1.35/bu(=$54÷40bu)
      ③ ブッシェル/トン換算:39.367 (1bu=25.4012kg)
      ④ 為替:96円
      ⑤ CIF係数(保険等):1.05

      輸入換算価格:($7.3+$2.15)×39.367×96円×1.05=37,499円/トン

      なお、上記の輸入とうもろこし換算式において、CBOTとうもろこし価格以外の諸条件が一定だとすると、CBOTとうもろこし価格の10セントの値上がりは、約397円/トンの値上がり要因になる。

    2. 為替

      とうもろこしの国際取引はドル建てで行われているため、ドル安になると米国産とうもろこしの価格競争力が増して米国産とうもろこしに対する需要が強まり、ドル建てとうもろこし価格の上昇要因となる。
      一方、とうもろこしを輸入する日本から見ると、ドル安(円高)は円建てとうもろこし価格の下落要因となる。東京商品取引所のとうもろこし先物価格は円建てで取引されているため、他の条件に大きな変化がなければ、ドル安(円高)は価格下落要因、ドル高(円安)は価格上昇要因になる。
      なお、上記(1)の輸入とうもろこし換算式において、為替以外の諸条件が一定だと仮定すると、1円の円安は約390円/トンの値上がり要因になる。

    3. フレート

      日本は、輸入の多くを米国に依存している。米国から日本へはパナマックス型と呼ばれる5万5000トン級の本船とハンディマックスと呼ばれる4万8000トン級の本船でとうもろこしが運ばれる。このフレート(運賃)が高くなると東京商品取引所のとうもろこし先物価格にとって上昇要因となる。
      なお、上記(1)の輸入とうもろこし換算式において、フレート以外の諸条件が一定だとすると、1円のフレートの値上がりは約100円/トンの値上がり要因になる。

      (参考:円建てとうもろこし先物価格の最高価格)
      円建てとうもろこし先物価格の最高価格は、旧東京穀物商品取引所において2008年6月27日につけた50,320円/トン。このときの諸条件は;
      ① CBOTとうもろこし価格(期近):$7.5475
      ② C&Fプレミアム:$4.4/bu

      • フレート:$148/ロングトン=$3.7/bu
      • FOBプレミアム:$0.7/bu
      • ブッシェル/トン換算:39.367 (1bu=25.4kg)
      • 為替:106円
      • CIF係数:1.05

      輸入とうもろこし換算価格=($7.5475+$4.4)×39.367×106×1.05=52,348円/トン

  6. 投資ファンドの動向

    株式や債券等の伝統的投資資産と異なるリターンを生むオルタナティブ投資の運用先として商品先物市場にも投資資金が配分されている。商品市場で運用するファンドには、商品投資顧問業者(CTA)、ヘッジファンド、商品インデックスファンドなどがあり、とうもろこし先物市場にもこれらのファンド資金が流入している。

    2006年から2008年にかけてエネルギー価格や食糧価格が急上昇した際に注目を集めたのが商品インデックスファンドである。商品インデックスファンドは、債券や株式の価格変動とは独立してインフレ・リスクをヘッジできる運用資産として運用規模を拡大し、2008年には主要な農産物先物市場の建玉の25%から35%を占めたといわれている。商品インデックスファンドが参照する主要な商品インデックスと各商品インデックスにおけるとうもろこしの組入れ比率は表12のとおりである

    表12 主要商品インデックスとCBOTとうもろこし組入れ比率

    主要商品インデックス とうもろこし組入れ比率
    S&P GSCI Commodity Index 4.69%
    Thomson Reuters/Jefferies CRB Index 6.0%
    Dow Jones-UBS Commodity Index 7.0531450%
    Rogers International Commodity Index 4.75%

    商品インデックスファンドの運用リターンは、『スポットリターン(原資産である先物価格の価格変動から生じるリターン。商品インデックスファンドは基本は「買い」を行うので、価格が上がれば益、下がれば損になる)』、『ロールリターン(限月をロールオーバーする際に、限月間の価格差から生じるリターン。順鞘は損、逆鞘は益)』、『T-Billリターン(証拠金として用いた資金以外の預託資金を米国債で運用することによって得られるリターン)』、の3つの源泉から構成される。商品インデックスファンドは、投資金額が大きいことに加え、長期に亘って建玉を保有する傾向があり、とうもろこしの価格形成において無視できない存在である。

    CBOTのとうもろこし市場におけるこれらのファンドの動向は、CFTCのコミットメント・オブ・トレーダーズ・レポートで入手することができる。(詳細:第5節 米国商品先物取引委員会(CFTC)建玉明細報告)



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