検定試験テキスト -農産物取引の基礎知識-

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第3章 粗糖の基礎知識

第1節 粗糖の商品特性

  1. 砂糖の歴史

    砂糖は我々の生活において最も馴染みのある甘味料であり、「サトウキビ(甘しゃ)」を原料とする「甘しゃ糖」と、「ビート(てん菜)」を原料とする「ビート糖(てん菜糖)」に分けられる。
    砂糖は、元前9000年にはニューギニアでサトウキビから砂糖が生産されていたという説もあるが、「Sugar」という単語の語源はサンスクリット語の「サルカラ」であるといわれるように、紀元前約300年、マケドニアのアレキサンダー大王がインドに遠征したときにガンジス河の流域でサトウキビを発見されたという説もある。

    6世紀から7世紀にかけて製糖法がインドから中国(唐)に伝わると、中国でもサトウキビが本格的に栽培されるようになり、7世紀にはペルシャを征服したアラブ人によりシリア、エジプト、地中海沿岸に伝わった。11世紀から13世紀に掛けて中東に派遣された十字軍が砂糖をヨーロッパに持ち帰り、それ以降、モロッコ、エジプト、スペイン、シチリア島などでもサトウキビの栽培が始まったといわれている。新大陸へは、1493年にコロンブスが第二次航海でサトウキビを持ち込んだのが始めといわれており、その後、キューバ、メキシコ、ブラジル、ジャマイカなどにサトウキビが伝わって砂糖生産が急拡大した。

    一方、ビート(てん菜)は、語源がギリシア語の「ベータ(β)」であり、形がカブのように太っている様子がこの文字に似ているからだといわれている。ビートはもともと野菜であったが、家畜の餌となり、品種改良を経て食用ビートが誕生した。
    ビートが砂糖原料として用いられるようになったのは、18世紀にドイツの科学者が餌用のビートから砂糖を分離することに成功してからである。砂糖製造を目的としたビートの生産拡大を奨励したのはナポレオンであるといわれている。ナポレオンは、大陸封鎖令を発令してイギリスの封じ込めを狙ったが、これによってイギリスの植民地で生産された砂糖が大陸に輸入できなくなったため、1811年に製糖業を保護奨励する法令を公布し、これをきっかけとしてフランス、ドイツ、オーストリア、ハンガリー、ロシアなどでビート糖を生産する製糖業が大きく成長した。

    日本には奈良時代の754年に、鑑真和尚によって中国から持ち込まれたと言われている。15世紀には、沖縄でサトウキビから黒糖が生産されていたと言われており、奄美大島でも1610年には黒砂糖を生産されていたと伝えられている。ビート糖については、ビートの種子が1870年に輸入され、その翌年には札幌で試作されたといわれている。

  2. 砂糖の種類

    1. 「甘しゃ糖」と「ビート糖」

      砂糖は、サトウウキビを原料とする「甘しゃ糖」とビートを原料とする「ビート糖」に分けられ、それぞれの作り方は異なっている。

      1. 甘しゃ糖

        甘しゃ糖の場合、収穫したサトウキビを工場で細かく刻み、甘い汁を搾って泥や石、搾りかすを沈殿させたのちに上積み液を煮詰め、結晶にしたのちに遠心分離機で糖蜜を分離し、結晶だけにした茶褐色の原料糖が「粗糖(Raw Sugar)」になる。その後、製糖工場に運ばれた原料糖は溶解、脱色清浄を経て、再度煮詰めてショ糖の結晶を作り(煎糖工程)、製品分離機でショ糖の結晶と蜜に振り分ける。このとき、得られる結晶が「砂糖」になる。

      2. ビート糖

        ビート糖は、収穫したビートを薄切りにして、温水に浸して糖分を抽出して糖液をつくり、その糖液を煮詰め、結晶にしたのちに遠心分離機で糖蜜と結晶に分離する。「ビート糖」の製造過程では、「甘しゃ糖」のように原料糖である「粗糖」を製造するという工程がないことが多い。

    2. 「分蜜糖」と「含蜜唐」

      砂糖は製法別に「分蜜糖」と「含蜜糖」に分類することもできる。

      1. 分蜜糖

        分蜜糖は遠心分離機で糖蜜を分離した砂糖であり、粗糖もビート糖も分蜜糖に該当する。

      2. 含蜜糖

        含蜜糖はサトウキビの煮汁を煮沸濃縮し、冷却して製造した砂糖で糖蜜を分離しない状態の砂糖であり、「沖縄黒糖」が該当する。

    3. 砂糖製品

      砂糖はまた、製品としても、「グラニュー糖」、「白ざら糖」、「上白糖」、「角砂糖」、「氷砂糖」などに分類することができる。

  3. サトウキビおよびビートの栽培

    1. サトウキビ

      サトウキビは竹状の植物で、熱帯や亜熱帯地域で栽培される。サトウキビの栽培方法は、植付け時期に基づく「春植え」・「夏植え」と、植付け方法に基づく「株出し」がある。
      春植えは春に植えて翌年の春に収穫するもので生育期間は約1年である。夏植えは夏に植えて約1年半後に収穫する。生育期間の長い夏植えは短い春植えに比べて単収が高くなる。
      サトウキビの植付けには、サトウキビの蔗茎を種苗として用いる方法のほか、収穫後に、土に残るサトウキビの切り株から直接芽を出させる「株出し」がある。この株出しの場合の生育期間は、春植えと同様に約1年間である。
      世界最大の甘しゃ糖生産国であるブラジルの収穫時期は、生産量の多い中南部のサンパウロ州では4月から12月、北東部地域は8月から3月であり、ブラジル全体では1年中収穫が可能である。日本の最大輸入先であるタイでは、3月から5月にかけて植付けし、12月から4月にかけて収穫される。

    2. ビート

      ビートは、白色・円錐形状の根菜類で、温帯から寒帯地域で栽培される。ビートの作付けは春に種をまき、半年後の秋に収穫される。

第2節 粗糖の需給

砂糖の需給統計は、FOリヒト社、国際砂糖機関(ISO)、ザーニコフ社(Czarnikow)などの砂糖トレーダー、米国農務省など様々な機関が提供している。日本でも、農畜産業振興機構がLMC International社に委託して調査したデータをホームページ上で提供している。これらの機関から発表される需給データおよび需給予想は微妙に異なっており、一般的にはFOリヒト社の統計データが用いられることが多いが、ここでは情報入手が容易な米国農務省および農畜産業振興機構が提供している統計を用いて砂糖の全体需給の傾向を見てみることとする。

  1. 世界の粗糖需給動向

    表1 世界砂糖需給バランス

    単位:1000トン(粗糖換算)

      期初在庫 生産量 輸入量 供給量 輸出量 消費量 期末在庫
    1990/1991 19,935 114,425 32,054 166,414 33,920 110,136 22,358
    1991/1992 22,358 117,426 30,884 170,668 32,600 113,722 24,346
    1992/1993 24,346 113,237 28,566 166,149 28,782 113,977 23,390
    1993/1994 23,390 111,015 30,538 164,943 29,734 113,540 21,669
    1994/1995 21,669 118,021 32,611 172,301 31,033 115,644 25,624
    1995/1996 25,624 123,730 34,253 183,607 35,307 117,656 30,644
    1996/1997 30,644 124,327 33,720 188,691 37,937 120,942 29,812
    1997/1998 29,812 125,506 34,416 189,734 37,683 123,552 28,499
    1998/1999 28,499 130,851 37,142 196,492 37,566 124,828 34,098
    1999/2000 34,098 135,722 36,998 206,818 41,770 127,615 37,433
    2000/2001 37,433 130,764 40,371 208,568 38,315 130,392 39,861
    2001/2002 39,861 134,398 39,688 213,947 42,333 134,985 36,629
    2002/2003 36,629 148,552 41,699 226,880 47,205 139,082 40,593
    2003/2004 40,593 142,487 41,256 224,336 46,537 139,744 38,055
    2004/2005 38,055 140,734 45,478 224,267 46,951 142,577 34,739
    2005/2006 34,739 144,303 44,720 228,850 49,534 143,656 35,660
    2006/2007 30,572 164,458 44,311 239,341 51,021 151,404 36,916
    2007/2008 36,916 163,536 44,992 245,444 50,891 151,267 43,286
    2008/2009 43,286 144,014 43,096 230,396 45,775 154,090 30,531
    2009/2010 30,531 153,403 48,134 232,068 48,906 154,226 28,936
    2010/2011 28,936 161,923 48,948 239,807 54,951 154,949 29,907
    2011/2012 29,907 171,978 48,902 250,787 55,971 159,510 35,306
    2012/2013 35,306 174,468 49,926 259,700 56,936 164,358 38,406

    (出所)USDA、FAS PSD online (2013年5月23日現在)

    1. 生産量

      砂糖は、原料であるサトウキビが熱帯地域から亜熱帯地域、ビートが温帯から寒帯地域にかけて栽培されているので、世界中のほとんどの国で生産されていることになる。
      砂糖の生産量は、中国やインド等の新興国の需要増を背景に増加を続けている。2011/12年度の世界の砂糖生産量は約1億7,198万トン(粗糖換算)と過去20年間で50%以上増加している。
      世界最大の砂糖生産国はブラジル(3,615万トン、シェア21%)であり、次いでインド(2,862万トン、同17%)、EU(1,811万トン、同11%)、中国(1,234万トン、同7%)、タイ(1024万トン、同6%)となっている。
      ブラジルは、過去20年間で生産量が約4倍に増加しており、2002/03年度以降、世界最大の砂糖生産国になっている。一方、かつて生産量が最も多かったEUは、2006年にWTO裁定に対応する形で砂糖制度改革を行い、輸出量制限や生産割当削減目標の設定等を行った結果、ビート生産量や砂糖生産量が減少し、現在では1,500万トンから1,700万トンで推移している。
      砂糖生産量に占める甘しゃ糖とビート糖の比率は、20年前の「65:35」から現在では「80:20」になるなど甘しゃ糖のシェアが拡大している。砂糖生産国上位5カ国のうち、ブラジル、インド、タイは全て甘しゃ糖、EUは全てビート糖、中国は甘しゃ糖中心で一部ビート糖となっている。

      図1 砂糖生産国上位5カ国の生産量推移

      (出所)USDA、FAS PSD online

    2. 消費量

      2011/12年度の世界の砂糖消費量は約1億5,951万トンであり、生産量を約1,000万トン下回っている。人口増加と新興国を中心とした経済成長が牽引役となって、砂糖消費量は過去20年間で約45%増加しておる。
      世界最大の砂糖消費国はインド(2,450万トン、シェア15%)であり、次いでEU(1,800万トン、同11%)、中国(1,420万トン、同9%)、ブラジル(1,150万トン、同7%)、米国(1,020万トン、同6%)となっている。
      一人あたりの砂糖の消費量は、主要国ではブラジルやベルギーが60kgを超えているのに対し、日本は17kgと先進国では最も少ない。日本は、1973年に29kgを記録して以降減少傾向にある。なお、中国は11kgである。

      図2 砂糖消費国上位5カ国の消費量推移

      (出所)USDA、FAS PSD online

      表2 主要国の一人当たり砂糖消費表

      単位:kg(粗糖換算)

      2006/07 2007/08 2008/09 2009/10 2010/11 2011/12 2012/13
      ブラジル 59.1 60.7 62.5 65.4 65.0 64.9 64.3
      ベルギー 58.2 57.9 57.6 57.3 59.1 59.8 60.6
      キューバ 61.1 60.4 58.1 56.1 56.9 57.2 57.4
      中略
      アメリカ 30.5 31.9 31.3 32.7 33.2 32.6 33.0
      中略
      インド 19.8 20.0 20.6 20.8 19.6 19.7 20.0
      日本 19.1 18.5 17.9 18.5 18.0 17.7 17.6
      中国 10.1 10.7 11.1 11.1 11.0 11.0 11.2

      (出所) 農畜産業振興機構委託調査会社 LMC International Ltd. の推計による
      (注) 11/12年度は推定値であり、12/13年度は予測値である。

    3. 輸出量及び輸入量

      砂糖貿易は穀物等に比べて保護主義的な傾向が強く、自由に取引される数量が限定されているという特殊性があるといわれている。

      1. 輸出量

        2011/12年度の砂糖輸出量は5,597万トン、輸入量は4,890万トンと推定されており、本来一致すべき輸出量と輸入量との間で約600万トンもの乖離が生じている。この理由としては、一部の輸入国が関税逃れのために砂糖を密輸しており、その数字がカウントされていない可能性が高いことが指摘されている。

        世界最大の砂糖輸出国はブラジル(2,465万トン、シェア44%)であり、次いでタイ(790万トン、同14%)、オーストラリア(280万トン、同5%)、グァテマラ(162万トン、同3%)となっている。ブラジルは、輸出量を過去20年間で約20倍に増加させている。一方、かつて世界最大の砂糖輸出地域であったEUは、2006年の砂糖制度改革によって輸出量が大きく減少し、2005/06年度の835万トンから現在では235万トンとなって純輸入国に転じている。

        図3 砂糖輸出国上位6カ国

        (出所)USDA、FAS PSD online

      2. 輸入量

        2011/12年度の世界最大の砂糖輸入国は中国(443万トン、同9%)で、次いでEU(341万トン、シェア7%)、米国(329万トン、同6%)、インドネシア(303万トン、同6%)、となっている。2011/12年度は、中国が2年続けての天候不順による不作により輸入量が急増したこともあって世界最大の輸入国になったが、この年を除けばEUが世界最大の輸入国として認知されている。EUは、EU諸国の旧植民地であるアフリカ、カリブ、太平洋諸国及び後発開発途上国からの輸入が多い。その他では、インドネシアとアラブ首長国連邦の輸入量の増加が著しく、過去20年間で、インドネシアは13倍、アラブ首長国連邦は20倍になっている。

        図4 砂糖輸入国上位5カ国

        (出所)USDA、FAS PSD online

  2. 日本の砂糖需給動向

    日本の砂糖総需要量は、2011年度が204万トンと、1970年代の約300万トンをピークに減少傾向にある。供給量のうち、国内生産量は約67万トン(ビート糖56万トン、甘しゃ糖10万トン)、輸入量が138万トンであるが、約20年前の1992年度の実績(国内生産量92万トン、輸入量173万トン)比較すると、市場規模が約30%縮小している。一人当たりの消費量も、トウモロコシ由来の「異性化糖」の消費量増加、少子高齢化、消費者の低甘味嗜好等による砂糖需要の減少により、先進国では最も少ない約16kgになっている。

    表3 日本の砂糖需給


    砂糖年度
    (10月から9月)
    総需要量① 国内産糖生産量② 輸入量 一人当たり消費量 異性化糖
    需要量
      てん菜糖 甘しゃ糖
    (万トン) (万トン) (万トン) (万トン) (万トン) (kg) (千トン)
    1992 261 92 72 20 173 21.0 710
    1993 251 84 63 20 170 20.2 672
    1993 248 79 60 18 163 19.8 738
    1994 247 77 58 18 164 19.8 727
    1995 244 84 65 18 161 19.4 733
    1996 239 72 57 14 161 18.9 737
    1997 232 81 64 16 154 18.4 740
    1998 231 86 68 17 147 18.3 760
    1999 230 80 62 18 149 18.1 763
    2000 229 73 57 15 148 18.1 741
    2001 228 84 66 17 141 17.9 761
    2002 230 88 72 14 148 18.0 768
    2003 224 90 74 15 136 17.5 791
    2004 223 91 78 12 127 17.5 796
    2005 217 84 70 13 133 17.0 790
    2006 218 80 64 15 135 17.1 801
    2007 220 86 68 17 138 17.2 824
    2008 214 88 68 19 122 16.7 784
    2009 210 86 68 17 126 16.5 803
    2010 210 66 49 16 143 16.4 806
    2011 204 67 56 10 138 16.0 812
    2012(見通し) 208 69 56 12 131 16.3 807

    注)

    1. 砂糖年度とは、当該年の10月1日から翌年の9月30日までの期間をいう。
    2. 分蜜糖は精製糖ベースの数量、含蜜糖については製品ベースの数量、異性化糖は標準異性化糖(果糖55%ものの固形ベース)に換算した数量である。
    3. 国内産糖生産量と輸入量の合計と総需要量の差は在庫変動である。
    4. 国内産糖生産量の合計には含蜜糖生産量を含む。
    5. 総需要量は、分蜜糖消費量、含蜜糖消費量及び工業用等の合計である。
    6. 17から22砂糖年度における②欄のてん菜糖の数値は、供給量の数値である。
    7. 輸入量は、通関実績の数値である。

    (出所)農林水産省資料、農畜産業振興機構

    日本は、供給量の約65%を外国からの輸入に依存している。2012年(暦年)の粗糖の年間輸入量は約140万トンであり、国別ではタイ(82万トン、シェア58%)が最も多く、次いでオーストラリア(47万トン、シェア34%)となっており、この2カ国で90%を超えている。

    日本は、「砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律」に基づき、粗糖などを安く輸入した製糖会社等から調整金を徴収し、これを主たる財源として国内の砂糖の原料作物生産者や国内産糖製造事業者を支援する仕組みである「糖価調整制度」を運営している。これにより、輸入品の価格は調整金の分だけ高く、国内産品の価格は交付金の分だけ低くなり、両者の国内価格が同水準になるようになっている。

    日本では、粗糖を「甘しゃ又はてん菜を原料とする分みつした砂糖で、乾燥状態(ドライベイシス)において全重量に対するしょ糖の含有量が検糖計の読みで 98.5 度未満に相当するもの(車糖、でん粉を加えた粉糖その他これらに類するもの、香味料を加えたもの及び着色したものを除く。)」としており、その関税は無税である。ドライベイシスでの糖度が98.5%を超えるものは「特殊糖(原料糖)」に分類され、関税も41.5円/kgになるため、必然的に日本に輸入される粗糖はドライベイシスで98.5度未満のものとなる。

    なお、国際商慣習上はドライベイシスではなくウェットベイシスが用いられており、ドライベイシスの糖度98.5度は概ねウェットベイシスの糖度98度に相当する。東京商品取引所の粗糖格付表において標準品の糖度96度に対して設けられている糖度格差もウェットベイシスである。

    日本に輸入される粗糖は「ウェットベイシスで糖度96度以上、日本到着時にドライベイシスで98.5度未満のもの」であり、このような規格を「J-SPEC」と呼ぶ。

    図5 日本における粗糖輸入量

    (出所)財務省貿易統計

第3節 粗糖の価格変動要因

  1. ニューヨークの粗糖先物価格

    粗糖は、農産物の中でも価格変動の大きな商品の一つであるといわれている。その理由としては、①砂糖は生活必需品であり価格弾力性が低いこと、②砂糖需給が逼迫してもサトウキビ生産には一定期間を要すること、②各国の保護主義的な砂糖政策の影響を受けやすい市場構造であること、などが挙げられる。
    粗糖の国際的な指標価格はニューヨークの粗糖先物市場(ICE Futures U.S.)で形成されている。したがって、ニューヨークの粗糖先物価格の動向は東京商品取引所の粗糖先物価格にも大きな影響を与えている。
    下記はNY粗糖先物価格(期近)の過去50年間の推移であるが、1963年(13.45セント)、1974年(66セント)、1980年(44.8セント)、2009年(27.49セント)から2011年(36.08セント)にかけてと、過去に大相場を複数回演じている。
    NY粗糖先物価格自体は、需給要因、天候要因、テクニカル要因などの影響を受けて変動する。

    図6 NY粗糖価格(期近)推移

  2. 需給要因

    砂糖も他の農産物と同様、需給バランスが価格の基調を変化させている。特に、消費量が一貫して増加傾向にある中で、天候要因等による生産量の変動が比較的大きいことが価格変動を大きくしている。例えば、2009年から2011年にかけての粗糖価格高騰は、2008/09年度に生産量が前年比で2000万トン(約12%)も減少したことに起因する。この年、生産量が大幅に減少した理由としては、産地の天候不順のほかに、2007年から2008年にかけて他の農産物価格が急騰を演じる中で粗糖価格が比較的に低位安定して推移したために、農家が高い収益性を求めてサトウキビ栽培から他の農産物に作付けをシフトした結果、サトウキビの作付面積が減少したことが挙げられる。
    また、在庫水準や在庫率は粗糖価格に大きな影響を与えるといわれている。過去の例では、在庫率が20%程度に下がるという予想が出されたときに暴騰を演じている。
    全体需給を把握する際、砂糖の需給統計の信頼性が穀物等に比べて低いことに注意する必要がある。また、砂糖需給統計は、FOリヒト社や米国農務省などのほか、ザーニコフ社などの砂糖トレーダーも提供しており、これらの機関が提供する需給予想により粗糖価格が大きく動くことがある。

  3. ブラジルの動向

    ブラジルは世界最大の砂糖生産国・輸出国であり、その動向は砂糖の国際需給と粗糖価格に大きな影響を与えている。ブラジルの砂糖生産量・輸出量は、エタノール要因、天候要因、砂糖国際価格及びレアル・ドルの為替要因などに左右される。

    1. エタノール要因

      ブラジルは、米国に次ぐ世界第2位のエタノール生産国であり、その原料には砂糖と同じサトウキビが用いられている。ブラジルでは約7割の工場がサトウキビを原料とする砂糖・エタノール双方の生産設備を有しており、収益性を計りながらそれぞれの生産量を決定している。
      ブラジルがエタノール増産を図るきっかけとなったのは、1970年代の石油危機だといわれている。この当時、石油の多くを輸入に依存していたブラジル政府は、石油の代替燃料であるエタノールの生産・利用促進を図る目的で、1975年に「プロアルコール政策」を導入した。
      ブラジルでは、過去30年にわたってサトウキビの生産量が増加しており、エタノール需要が牽引役となって砂糖・エタノール産業全体への投資が進んだ結果と考えられる。特に、2000年代中頃以降は、原油価格の急激な上昇や再生可能エネルギーの需要拡大によってエタノールブームが起こり、エタノール・砂糖双方の生産が急拡大している。エタノールの需給を占うには、エタノールの生産コスト、ブラジル国内のガソリン価格、ブラジル政府のエタノール政策などにも注意する必要がある。

      図7 ブラジルにおけるサトウキビ、砂糖、エタノール生産量

      (出所)UNICA

    2. 天候要因

      天候要因としては、特にサンパウロ州などの主要産地における降雨不足、低温、降霜等に注意する必要がある。単収の低下は、天候に加えて、株出し回数の増加や植え替えの停滞によっても生じるため、株出し回数や更新割合にも注目する必要がある。

    3. 砂糖国際価格及び為替要因

      砂糖とエタノール双方の製造設備を有しているブラジルの工場にとって、砂糖の国際価格とレアル・ドルの為替レートは収益性を計る上で重要な指標となる。砂糖は、国際市場でドル建ての取引が行われているため、砂糖の国際価格が高いときやレアル安のときは、サトウキビから砂糖を生産する比率が高くなって生産量が増加する。実際、砂糖の国際価格が高かった2009/10年以降の時期、レアル安が続いた1990年代後半から2000年代前半までの時期は砂糖生産比率が増加して生産量も拡大している。

      図8 ブラジルにおける砂糖・エタノール生産向けサトウキビ使用比率

      (出所)Brazilian Sugar Policy, Alexandre Rands Barros, Fourth FAO sugar conference

  4. 主要国の砂糖政策

    砂糖は穀物等に比べて保護主義的な要素が強く、自由に取引できる数量が限定されていることから、生産国や輸入国における政策が価格に大きな影響を与える。
    かつて世界最大の砂糖生産国・輸出国であったEUが、WTO裁定に対応するために2006年に砂糖制度改革を行った結果、砂糖の純輸入国に転落したことは砂糖の国際価格に大きな影響を与えたといわれている。
    世界最大の砂糖消費国で世界第2位の砂糖生産国であるインドの「シュガーサイクル」もインドの砂糖政策に起因するといわれており、国際的な砂糖需給及び砂糖価格に影響を及ぼしている。『シュガーサイクルとは、州政府が公表するサトウキビの最低買付価格(SAP)がサトウキビ生産コストを大幅に上回る水準で定められることなどにより生じる。すなわち、サトウキビが豊作で国内砂糖価格が砂糖生産コストを下回るまで低下した場合、工場は生産者にサトウキビ代金を支払うことができず、このため生産者は次年度サトウキビの作付面積を減少させる。次にそのサトウキビ作付面積の減少が国内砂糖価格の上昇を招くと、工場のサトウキビ代金の支払いが円滑になり、これをみて次年度農家はサトウキビ作付面積を増加させるといった作付行動により生じるとされる*』ものであり、天候に起因する周期的な生産量の変動を増幅させる役割を果たしている。
    上記2のように、世界最大の砂糖生産国であるブラジルにおけるエタノール政策も砂糖の国際価格に大きな影響を与えている。
    *インド砂糖産業の改革の行方、農畜産業振興機構

  5. 天候要因

    サトウキビにとって、干ばつ、高温、長雨、洪水、ハリケーンなどは減産要因になる。一般的に、干ばつは生育を阻害し、洪水は長引くと糖度の低下をもたらす。ビートは地中で育つために干ばつには強いものの、低温・長雨は糖度の低下を招く。
    世界最大の砂糖生産国であるブラジルは、2011/12年に作付面積の増加にもかかわらず減産となったが、ラニーニャ現象による降雨不足、低温、そして降霜による組織の壊死が原因の一つといわれている。
    世界最大の砂糖消費国で世界第2位の砂糖生産国であるインドは、サトウキビ栽培を天水灌漑に依存しており、モンスーン期の降雨量に左右される。小規模な干ばつは約5年周期、大規模な干ばつは約10年周期で発生しており、砂糖生産量も周期的な変動を見せる。インドの生産量の変動が大きいことに起因する輸出入の振れが大きいことは、国際砂糖価格にも大きな影響を与えている。

    図9 インドの砂糖輸出入量(ネット)推移

    (出所)USDA, FAS, PSD Online

  6. 中国、インド、インドネシア等の新興国需要の動向

    中国、インド、インドネシアなどの新興国は過去10年で大幅に消費量が増加しており、今後もその動向が注目される。高い経済成長率と人口増加率に加え、これらの国の1人あたりの消費量は依然として低い水準に留まっていることを考えると、今後も需要増加余地が大きいものと予想される。

  7. 競合甘味料の動向

    砂糖の競合商品である異性化糖(トウモロコシ由来)の生産量にも注意が必要である。トウモロコシが減産になって価格が上昇すると異性化糖の価格も上昇するので、需要面での砂糖への転換が図られて砂糖の需要量が増加する。

  8. タイ・プレミアム

    日本は、輸入の多くをタイに依存している。 タイからの輸出価格は、「NY粗糖先物価格+α」で表現されており、このαはタイ・プレミアムと呼ばれている。タイ・プレミアムはタイ産粗糖の需給などを反映しており、このタイ・プレミアムが高くなると東京商品取引所の粗糖価格の上昇要因となる。

  9. 白糖プレミアム

    ロンドンのNYSE Liffeに上場されている白糖先物(White Sugar)期近価格とNY粗糖期近価格の差(ドル/トン)を白糖プレミアムと呼ぶ。白糖プレミアムが上昇して加工コストを上回ると粗糖を持ち込んで白糖に加工して輸出する「トーリング」が増えるので、粗糖の需要も増加する傾向がある。

    図10 白糖プレミアム推移

    (出所)トムソン・ロイター

  10. 為替及びフレート

    1. 輸入粗糖換算価格

      (NY粗糖×ポンド/トン換算+フレート等)×為替

      上記の日本が粗糖を輸入する際の換算式(円/トン)において、2013年3月22日時点のそれぞれのデータ(下記①~⑤)を用いると以下のように計算できる。

      1. NY粗糖:¢18.2/ポンド
      2. 為替:96円
      3. フレート等:$35/トン
      4. ポンド・トン換算:22.046

      輸入換算価格:(¢18.2×22.046+$35)×96円=41,878円/トン

      なお、この輸入粗糖換算式において、NY粗糖価格以外の諸条件が一定だとすると、NY粗糖価格の1セントの値上がりは、約2,116円/トンの値上がり要因になる。

    2. 為替

      砂糖の国際取引はドル建てで行われているため、ブラジル等の生産国通貨が対ドルで安くなると生産国の増産意欲が高まり、輸出量を増やすインセンティブが働くので粗糖価格の下落要因になる。
      一方、粗糖を輸入する日本から見ると、ドル安(円高)は円建て粗糖価格の下落要因となる。東京商品取引所の粗糖先物価格は円建てで取引されているため、他の条件に大きな変化がなければ、ドル高(円安)は価格上昇要因、ドル安(円高)は価格下落要因になる。
      なお、上記(1)の輸入粗糖換算式において、為替以外の諸条件が一定だと仮定すると、1円の円安は約436円/トンの値上がり要因になる。

    3. フレート

      タイから日本へは12000トン程度の船で粗糖が運ばれることが多い。このフレートが高くなると東京商品取引所の粗糖先物価格にとって上昇要因になる。
      なお、上記(1)の輸入とうもろこし換算式において、フレート以外の諸条件が一定だとすると、1ドルのフレートの値上がりは96円/トンの値上がり要因になる。

  11. 投資ファンドの動向

    株式や債券等の伝統的投資資産と異なるリターンを生むオルタナティブ投資の運用先として商品先物市場にも投資資金が配分されている。商品市場で運用するファンドには、商品投資顧問業者(CTA)、ヘッジファンド、商品インデックスファンドなどがあり、とうもろこし先物市場にもこれらのファンド資金が流入している。
    2006年から2008年にかけてエネルギー価格や食糧価格が急上昇したが、その時に注目を集めたのが商品インデックスファンドである。商品インデックスファンドは、債券や株式の価格変動とは独立してインフレ・リスクをヘッジできる運用資産として運用規模を拡大し、2008年には主要な農産物先物市場の建玉の25%から35%を占めたといわれている。商品インデックスファンドが参照する主要な商品インデックスと各商品インデックスにおける粗糖の組入れ比率は表10のとおりである

    表10 主要商品インデックスと粗糖組入れ比率

    主要商品インデックス 粗糖組入れ比率
    S&P GSCI Commodity Index 1.85%
    Thomson Reuters/Jefferies CRB Index 5.0%
    Dow Jones-UBS Commodity Index 3.8839680%
    Rogers International Commodity Index 1.00%

    商品インデックスファンドの運用リターンは、『スポットリターン(原資産である先物価格の価格変動から生じるリターン。商品インデックスファンドは基本は「買い」を行うので、価格が上がれば益、下がれば損になる)』、『ロールリターン(限月をロールオーバーする際に、限月間の価格差から生じるリターン。順鞘は損、逆鞘は益)』、『T-Billリターン(証拠金として用いた資金以外の預託資金を米国債で運用することによって得られるリターン)』、の3つの源泉から構成される。商品インデックスファンドは、投資金額が大きいことに加え、長期に亘って建玉を保有する傾向があり、とうもろこしの価格形成において無視できない存在である。

    CBOTのとうもろこし市場におけるこれらのファンドの動向は、CFTCのコミットメント・オブ・トレーダーズ・レポートで入手することができる。(詳細:第1章第5節 米国商品先物取引委員会(CFTC)建玉明細報告)


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