検定試験テキスト -貴金属取引の基礎知識- - 学習

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第1章 金の商品知識


第1節 金の商品特性

第1項 性質
  1. 希少性、金特有の単位

  2. (1)希少性

    金の商品としての最大の特徴は、その「希少性」である。
     有史以来、人類が採掘・精製した金の総量を「金の地上在庫」と呼ぶが、トムソン・ロイターGFMS社( 旧Gold Fields Mineral Services社。 ロンドンに拠点を置く貴金属調査会社で、その貴金属需給に関する各種統計は高い信頼性を得ている。以下GFMS)の調べによれば、2012年末時点での金の地上在庫は約 174,100 トンと推定されている。

    金の資源量(Reserve Base)は約100,000トン(2009年米国地質調査所(USGS) "Mineral Commodity Summaries")、そのうち経済的に生産可能な部分(これを「埋蔵量(Reserve)(*)」という)は約52,000トン(2013年USGS "Mineral Commodity Summaries")。同年の年間生産量は2,700トンなので可採年数は約19年となる。

    * JIS基準による「埋蔵鉱量」は、地殻中に現存する鉱床の質量とされており、「確定鉱量」、「推定鉱量」、「予想鉱量」を含むため、USGSの「資源量」に近い定義である。これに対し、USGSの「埋蔵量」は、JIS基準においては「可採鉱量(現存する鉱床の採鉱により出鉱すべき粗鉱の質量)」に相当する定義であるため、注意が必要である。

     

    (2)金特有の単位

    金の純度は「カラット(K)」で表され、24Kが純度100%の純金で、18Kとは純度18/24つまり75%の純度を表す。
    また、金の重量単位は日本ではグラムまたはキログラム、欧米ではトロイオンス(troy ounce)が一般的である。両者の単位の関係は下記の通り。
       1トロイオンス=31.1035グラム
       32.15074トロイオンス=1キログラム

  3. 物理的・化学的特性
  4. 金の物理的・化学的性質に係る基礎的なデータは下記の通り。

    ・元素記号Au、原子番号79、周期表1B族・銅族の金属元素。
    ・原子量196.96655、比重19.32(20℃)
    ・融点1,064.43℃、沸点2,857℃(1気圧)

    (1)物理的性質
    ① 展延性  

    引張り強さは11~22kg/mm²(炭素鋼(軟鋼)は38 ~44kg /mm²)、ビッカース硬度は20~60(炭素鋼(軟鋼)は140 程度)と、極めて柔軟である。金属の中でも最も展延性に優れ、1グラムの金から厚さ0.1マイクロメートルの金箔5,000cm²が作れると言われている。反面、柔らかすぎるため、銀や銅などと合金化してから使用されることが多い。

    ② 色

    黄色より長い波長の光だけを反射し、他の波長の光は吸収してしまう性質を持つことから、黄金色に見える。ただし、極薄の金箔をガラス板にはさんで光に透かすと緑色に見える。

    ③ 熱伝導率
     熱伝導率は319 W/m・K(0℃)と非常に高く、熱を伝えやすい。

    ④ 電気抵抗率
     電気抵抗率は2.05×10-6Ωcm(0℃)と低く、銀、銅に次いで電気を通しやすい。


    (2)化学的性質
    ① 酸化・腐食性
     化学的にはすべての金属中、最も安定した金属で、空気中または水中においては酸化・腐食しない。高熱で加熱・溶解してもその安定的な性質は変わらない。

    ② 酸・アルカリに対する反応
     王水(濃塩酸3:濃硝酸1の比率の混合液)、シアン化カリウム、水銀以外には、酸にもアルカリにも反応しない。

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第2項 通貨制度との関係
  1. 金本位制の確立とポンドの時代
     金はその耐久性、均質性、可分性、希少性と見た目の美しさから、銀とともに紀元前から貨幣の一種として用いられてきた。19世紀に入って大銀山の発見により銀の産出量が増え、銀の価値が下落するようになると、金が唯一の通貨の基準として使われるようになっていった。
     金を一国の通貨制度の基礎に置き、貨幣の単位価値を一定量の金と関連させる制度を「金本位制」というが、正式な金本位制に基づく貨幣制度が始まったのは、1816年に英国の貨幣法が制定されたのがその端緒といわれている。
     産業革命をいち早く達成し、圧倒的な経済力を有していた英国は、広大な植民地から金を大量に生産し、その金を裏付けに通貨の発行を始め、1816年には1ポンドの金貨鋳造を開始した。そして1844年には英国の中央銀行であるイングランド銀行が金と交換できるポンド表示の兌換紙幣を発行した。中央銀行は発行する紙幣と同額の金を常時保管し、紙幣と金との兌換を保証する制度を導入した(具体的には、金1オンス=3ポンド17シリング10.5ペンスと定めた)。これが世界の金本位制の始まりである。
     その後、英国に続いて各国が金本位制に移行した結果、国際的な金本位制が確立され、日本も日清戦争の賠償金をもとに1897年に金本位制を正式に採用した。国際的な金本位制の下では、国際間の決済は金を基準に各国の通貨の価値が決定される。その中で、当時、強大な経済力と軍事力を有し、大量の金を保有していた英国の通貨ポンドが、次第に基軸通貨としての役割を果たすようになっていった。日本では既に江戸時代に実質的な金本位制が確立されていたが、江戸が金本位制であったのに対して、大阪では銀本位制が一般的であった。当時、海外の金と銀の価値の比率は15対1であったのに対し、日本のそれは5対1と金が割安に評価されていたため、幕末には大量の金が海外に流出するという事態が起こった。
  2. 金本位制の崩壊と管理通貨制度
     ポンドを中心とする金本位制は、第一次世界大戦が勃発する1914年までの約100年間続いたが、戦争による混乱から金の保有を裏付けとする通貨発行が困難になり、1917年には主要な国々が金兌換を停止せざるを得なくなった。その後に、第一次世界大戦終結後の1919年に米国が、1925年には英国が、それぞれ金本位制に復帰した。
     しかし、金は圧倒的な経済力を有する米国に集中し、加えて米国が通貨準備としての金の一部を退蔵する不胎化政策をとった結果、金本位制の持つ国際収支調整のメカニズムは失われ、金の偏在がさらに進行した。これに加えて1929年のニューヨーク・ウォール街の株式大暴落に端を発する世界大恐慌をきっかけに、英国は1931年、再び金本位制からの離脱を余儀なくされた。米国を除く各国もこれに追随し、以後、通貨発行を中央銀行の保有する金にリンクさせずに、政策目標に応じて通貨当局が国内の通貨量を調整する「管理通貨制度」へと移行していった。
  3. ブレトンウッズ体制
     第二次世界大戦の大勢が決した1944年7月、米国ニューハンプシャー州のブレトンウッズで、戦後の国際通貨体制の在り方を議論するため、連合国44ヶ国の代表が集まる国際会議が開催された。その結果、国際通貨制度の再構築や安定した為替レートに基づく自由貿易を発展させるための取り決めが行われ、これを実現するため、国際通貨基金:IMF(International Monetary Fund)と国際復興開発銀行:IBRD(International Bank for Reconstruction and Developmentいわゆる世界銀行(World Bank))の設立が決定された。前者は短期的な資金を、後者は長期的な資金を提供する役割を担っていた。これら二つの機関が中心的な役割を果たす戦後の世界経済秩序は、「ブレトンウッズ体制」または「IMF体制」とよばれた。
     IMFは、金だけを国際通貨とする金本位制ではなく、当時圧倒的な経済力を誇っていた米国の通貨ドルを基軸通貨とする制度を提唱し、米ドルを金と並ぶ国際通貨とした。これは米国の豊富な金を背景に発行されたドルに金と同様の価値を保証するもので、「金または金と結びついた米ドル」と各国の通貨の価値を一定の交換率(「為替平価」)で結びつけ、管理された「金為替本位制」を目指すものであった。
     この制度の下では、金とドルの交換率を金1トロイオンス=35米ドルと定め、金との交換が保証された。IMFの加盟各国は、自国通貨を金またはドル平価で表示することになり、為替相場の変動を為替平価の上下1%以内に維持することになった。戦後、IMF加盟国となった日本も、ドル平価を1米ドル=360円とし、変動幅も当初は為替平価の上下0.5%に設定した(1963年以降は上下0.75%に拡大)。このようにブレトンウッズ体制では、通貨の交換比率(為替レート)は実質的にほぼ固定されていた(固定相場制)。
     また、金または米ドルと各国の通貨価値を連動させたことから、ブレトンウッズ体制は「金ドル本位制」ともよばれている。
  4. ブレトンウッズ体制の崩壊
     しかし、強大な経済力を誇った米国も、1960年代のベトナム戦争や軍事力の増強などによる軍事費の増大によって大幅な財政赤字を抱えることとなり、国際収支が悪化し、1971年には貿易収支も赤字に転落したことで、米ドルへの信頼は大きく失墜することになった。1949年のピーク時には21,707トンもあった米国の金の準備高も、他国の中央銀行が米ドルから金への兌換を進めたため、1970年には10,000トンを割り込む水準まで減少した。
     米国は金の準備量をはるかに超えた多額のドル紙幣の発行を余儀なくされ、金との交換を保証できない事態に立ち至り、1971年8月15日、ニクソン米大統領は、ついに金とドルの交換停止を発表した。これによりブレトンウッズ体制は崩壊し、金は国際通貨制度から実質的にその位置づけを失った。信用を失った米ドルは大量に売却され、大暴落が始まり、国際通貨制度は一時的に固定相場制から変動相場制へと移行する様相を見せた(ニクソン・ショック)。
  5. スミソニアン体制とその崩壊
     1971年12月、米国のワシントンにあるスミソニアン博物館で、先進10ヶ国財相会議が開催され、米ドルの切り下げと為替変動幅の拡大が決定された。米ドルは7.89%切り下げられ、金とドルの交換率は1オンス=35米ドルから38米ドルへ引き上げられ、円は1ドル=360円から308円へと14.44%切り上げられた。為替変動幅も、従来の上下1%から上下2.25%へと拡大された。
     「スミソニアン体制」と呼ばれたこの緩やかな固定相場制のもとでも、米国や英国の国際収支の悪化を食い止めることはできず、やがて英国をはじめとする各国がスミソニアン体制を放棄し、1973年には主要先進国は変動相場制に移行した。こうしてスミソニアン体制はわずか2年で崩壊した。
  6. 変動相場制への移行とキングストン合意
     主要先進国が全て変動相場制に移行した1976年1月、ジャマイカのキングストンでIMFの暫定委員会が開かれ、変動相場制の正式承認を含むIMF協定の第二次改正が行われた。ここで第二次世界大戦後の国際通貨制度の共通単位であり特別引出権:SDR(Special Drawing Rights)の価値基準であった金の使用が正式に廃止された。併せて金の公式価格も廃止され、IMFと加盟国間の取引に金を使用する義務も撤廃された。さらにIMFが金の取引において、その価格の管理や固定価格の設定をしない旨の義務付けを行った。以上の合意は「キングストン合意」と呼ばれ、1978年4月1日に発効した。
     変動相場制は、外国為替市場で取引される為替レートを、一定比率に固定せず、その需要と供給により自由に変動させる制度である。変動相場制には、国際収支の不均衡を自動的に調整させる機能があると考えられていたが、資本取引が活発になり金利差が相場に大きく影響を与える局面などでは、為替レートは必ずしも経常収支を均衡させる水準に決まらず、大きくかけ離れた水準で推移する事態も多々見受けられる。
     現在は、変動相場制を基本に据えつつも、市場メカニズムの調整機能を補完するため、中央銀行による市場介入や各国のマクロ経済の政策協調など、望ましい国際通貨制度の在り方が模索されている。
  7. 現在の通貨制度における金の役割
     以上のように、1978年のIMF協定の第二次改正によって、金は国際通貨制度において少なくとも制度的・形式的には、その役割を終えたと言える。しかし、金は実際には多くの国々にとって外貨準備のための重要な資産であって、各国の中央銀行のみならずIMF自身も多くの金を保有している。
     現在のIMFの金に関する基本的な政策は、IMF自身が不測の事態に備えるために比較的大量の金を資産として保有し続けるものとし、同時に金の保有により財源活用と信用強化の両面における運営上の機動力を確保し、加盟国がIMFによる金保有の恩恵を享受することができるよう努めるというものである。ちなみに ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、 2013年7月時点の世界の各国・国際金融機関の金の準備高の総計は30,100トン、その中でIMFの金準備高は、米国(第1位8,133トン)、ドイツ(第2位3,391トン)に次いで第3位(2,814トン)となっており、我が国は第9位(765トン)となっている。
     さらにIMFは、自らが保有する金の流動化が財務体質の弱体化につながらないよう努めることはもちろんのこと、金市場の混乱を回避することもその責務としている。なお、IMFは2009年10月に、当時の金準備高(3,217トン)のうち、8分の1に相当する403.3トンを売却する計画を明らかにし、この計画に基づき売却を進めてきたが、2010年12月に予定量の売却を完了している。

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第2節 金の供給

金の主な供給元としては、鉱山における生産による一次供給、スクラップから回収される二次供給、公的機関による売却、鉱山会社による売りヘッジ、そして退蔵放出などが挙げられ、金の2012年の総供給量は4,477トンであった。
 以下、金の需給統計に関する数値は、ことわりのない限り、GFMSの"Gold Survey 2013"による。

第1項 鉱山生産 -一次供給による新産金-

鉱山から毎年新たに生産される金は「新産金」と呼ばれている。世界の新産金の総量は、ここ数年 2,800トン程度で、金の年間総供給量のほぼ60%前後を占めている。GFMSによれば、2012年の新産金は史上最高の2,861トンに達した。 一方、中古金スクラップの供給量は3.2%減の1,616トンにとどまった。
 なお、産金コスト(トータルキャッシュコスト)は10年連続で増加し、2012年は643ドル/oz(≒2,370円〔1ドル=100円の場合〕)となった。
 また、以前は金の生産量は数ヵ国に偏っていたが、近年は上位10ヵ国で約1,876トンと全体の65%程度にシェアが下がっている。

  1. 南アフリカ
     19世紀の後半から始まった南アフリカにおける金の生産は、人種隔離政策アパルトヘイトの下で安価に提供される黒人の労働力を活用して、大幅な増産が続けられてきた。その結果、新産金の生産量に関しては、長らく南アフリカがトップの地位を占めてきたが、近年その生産量は減少傾向にあり、2007年、生産量1位の座を中国(281トン)に奪われた。1970年には1,000トン、世界の66.8%のシェアを誇っていた南アフリカの新産金も、2007年には生産量270トンと、前年から26トン減と大幅な落ち込みを見せた。この大きな原因は、南アフリカの産金コストの増大にある。南アフリカの金鉱山はオレンジ州とトランスバール州にまたがるゴールデン・アーク地帯に集中しており、その深度は3,000メートルを超えるところが多いため、換気システム等の設備投資の増大や落盤事故の発生の危険性が産金コストを押し上げている。さらに、資源所有権は全て国家に帰属し、生産活動が行われている現場には課税し、活動が行われていない資源所有権は国家に所有権を移転させるという、現在の南アフリカ政府が進めている政策("Use it or lose it")も、産金コストの増大に拍車を掛けている。加えて近年では労働問題の深刻化も、産金コストの増大の要因となっている。  
      産金コストの増大に加え、南アフリカ政府が2002年に黒人の経済的地位向上を狙いとするBEE(Black Economic Empowerment)政策の下、制定した「鉱業憲章」の鉱山の新規投資への影響もある。鉱業憲章は、既存の鉱山会社に対して、黒人の所有権を2009年までに15%、2014年までに26%に引き上げることを求めるとともに、新規の鉱山開発は、黒人が51%以上出資している会社にしか認めないと定めているため、国内の鉱山企業が、国内鉱山への新規投資に慎重になっているといわれている。なお、2009年時点で、同国の鉱山会社の黒人所有比率は8.9%と、目標達成には程遠い状況であり、南アフリカ政府は2010年9月に鉱業憲章を改訂し、付加価値化のレベルに応じ、所有権(資本参加比率)の11%までを目標値から減免できるものとした。その一方で、2010年3月には、石油・鉱物ロイヤルティ法が施行され、鉱業権保有者は、政府に一定のロイヤルティを支払うことが義務化されており、鉱山開発コストに影響するものとみられる。
     さらに、2008年に入ってからは、電力不足や安全上の理由による鉱山の操業停止により、生産量が大幅に落ち込んだ。南アフリカでは、最近の急速な電力需要の拡大に発電・送電能力が追いついていないといわれており、こうした状況が、今後も鉱山の操業に影響を与えそうである。
     しかし、南アフリカは、アングロゴールド(Anglo Gold)やゴールド・フィールズ(Gold Fields) など数多くの鉱山会社を有し、世界有数の金の生産国として依然として強い影響力を保持していることに変わりはない。2012年の金生産は178トン(世界第6位)。
  2. ロシア連邦を中心とする独立国家共同体CIS(旧ソビエト連邦)
     旧ソビエト連邦の時代は、金の生産高について公式の統計が公表されず、正確な数値が把握できなかったが、1991年12月のソビエト連邦の崩壊と、その後のロシア連邦を中心とする独立国家共同体の発足によって、1992年以降は次第に統計が整備されつつある。
     旧ソビエト連邦時代、金の生産量は1953年の117トンから1989年の285トンまで増加し、1980年代は南アフリカに次ぐ金の生産国として、その動向は注目の的であった。しかし、ソビエト連邦崩壊後は、国内の社会経済の混乱により、金の生産量は減少に転じ、1996年には230トンの水準にまで落ち込んだ。
     CISの中での最大の金の生産国はロシア連邦で、1992年以降のGFMSの資料によれば、ロシアの金の生産量は1993年の165トンから1998年の127トンにまで落ち込んだが、その後、回復に転じ、2003年には182トンを記録した。その後の生産量は減少し、2007年に169トンとなったが、2012年は230トンに回復した(世界第4位)。ロシアは、かつて大量の売却をしたことがあったが、これは在庫を切り崩したもので、生産高の大きな変化はないと見られている。
     CISの金生産には、金鉱山から採掘されるものや、非鉄金属鉱石の副産物として回収された金や、川床などから採取される砂金などが含まれる。近年は、金鉱山から生産される金の比率が高まっており、その採掘も従来の露天掘りから地下採掘へとシフトしつつある。CISの金鉱山は、南アフリカと異なり比較的深度が浅く、まだかなりの埋蔵量があるものと推測されている。
  3. 米国、カナダ、オーストラリア  
     1980年代から急速な発展を遂げている米国、カナダ、オーストラリアの金鉱山は、南アフリカよりも深度が浅く、また鉱石品位の良さも相俟って、生産コストが南アフリカより低い。また資金力も豊富なため、産出量も安定的に推移してきた。2012年時点で、オーストラリアは250トンで、世界第1位の中国(413トン)に次いで世界第2位、米国は231トンで第3位、カナダは108トンで第7位の金の生産国となっている。しかし、近年では環境問題の影響や後述する1990年代の金相場の低迷により、再編による寡占化が進み、生産量がコントロールされるようになってきた。
     金鉱山は、米国ではネバダ州に、カナダではオンタリオ州からケベック州にかけて、オーストラリアではウエスタン・オーストラリア州西部に、それぞれ集中している。
     これらの国々の主な鉱山会社としては、米国のニューモント・マイニング(Newmont Mining)、フリーポート・マクモラン(Freeport-McMoRan)、カナダのバリック・ゴールド(Barrick Gold)などが挙げられる。
     これらの鉱山会社は、1990年代の金相場の低迷によって、一時、国際金価格が生産コストぎりぎりまで下落したことから、各社とも国際的な競争力の強化と生き残りをかけて、コスト削減のため大幅な業界再編を余儀なくされた。例えば、2001年12月にカナダのバリック・ゴールドが米国のホームステイク・マイニングを買収し世界の金鉱山会社のトップの座についたが、翌2002年2月には米国のニューモント・マイニングがオーストラリアのノルマンディ・マイニングとカナダのフランコ・ネバダ・マイニング(Franco Nevada Mining)を買収し、バリック・ゴールドを抑えて世界最大の金鉱山会社となった。その後2006年3月にはバリック・ゴールドがプレーサー・ドームを買収し、再び世界最大の金鉱山会社となった。こうした合併・再編によって、世界の金鉱山会社は寡占化が進展し、大手の金鉱山会社による金の生産量のコントロールが強化され、今後、金鉱山会社の生産過剰によって金価格が大幅に下落する可能性は小さくなったといわれている。
  4. その他の新興産金国
    (1)南米諸国
     南米では北米の金鉱山会社の資本参加によって、ペルー、チリ、アルゼンチンなどで金鉱山が開発されている。特にペルーは、1993年の27トンから2005年の218トンへと急速に生産量を増やした。 2012年には185トンとなり、世界で第5位の産金国となっている。
     これに対し、かつて南米第1の生産量を誇っていたブラジルは、1988年の102トンをピークに金の生産量は減少しつつあり、2012年の数字では67トンとなっている。
    (2)東南アジア
     東南アジアではインドネシアの生産量の伸びが顕著である。1990年の18トンから10年余りで急速に金の生産量は増大した。2011年には120トンと世界第7位の産金国となった(ちなみに2001年は183トンで世界第4位)が、2012年には前年比29%減の89トンとなり、世界第10位となった。
     このほか東南アジアでは、パプア・ニューギニアが、インドネシアに次いで年間60トンから70トン程度の生産量で推移してきたが、2012年は57トンと、前年比11%減となった。
    (3)中国
     中国も近年、金の増産が顕著で、1993年に119トンであった生産量は、2007年には281トンまで増加し、前年比9%減で270トンであった南アフリカを抜いて世界一の金生産国となった。中国では経済成長に伴い金消費の拡大が続いており、増産投資も活発化している。現在、中国政府は、より一層の増産に向けて、鉱業を自由化し、外国資本の導入を促進しつつある。2012年の金生産は413トン(世界第1位)。
  5. 日本
     日本の新産金は年間約7トンで、世界の生産量のわずか0.2%程度に過ぎない。その大半は住友金属鉱山の菱刈鉱山(鹿児島県)からの生産によるものである。しかし菱刈鉱山の鉱石は世界有数の高い品位を誇っており、その埋蔵量は約180トンと推定されている。

第2項 製錬法(金銀鉱石)

金の製錬とは、金をわずかに含む鉱石から、以下に掲げる様々な方法で処理し、純粋な金属として金を取り出すことを言う。金鉱石には、金と銀が含まれているもの、金、銀、銅、鉛が含まれているものなど様々である。

  1. 銅・鉛製錬の副産物としての金・銀回収
     日本の生産の多くは、銅・鉛精錬の副産物としての金・銀回収である。金・銀を含んだ銅・鉛・鉱石から、鉛アノードと銅アノードを電気分解して銅また鉛を回収すると、金と銀が溶けた銅、または、鉛電解スライムがとれる。銅スライムの場合には、金・銀の他に白金、パラジウム、ニッケル、銅、亜鉛など各種の金属が含まれている。このスライムから金、銀以外の金属を取り除き、銀アノードを取り出す。銀アノードの金・銀品位は、金と銀を合わせても98%~99%で、ここから銀を分離回収、残る金アノードを電気分解して金を回収し、99.99%の金地金が作られる。
  2. 青化法
     青化法とは、金や銀が青化液(NaCNの薄い液)に溶けるということを利用した製錬法である。手順的には、まず薄い青化液をかけながら、鉱石を細かく砕き長時間タンクの中でゆっくり攪拌する。
     それをろ過し、金・銀が溶けている溶液を分離し、これに亜鉛の粉を入れる。すると、亜鉛が溶液に溶け込むのと同時に、金・銀が析出される。析出したものを再びろ過し、金・銀の沈殿物を回収、これを加熱してガスになりやすいものを除去する。その後、ほう砂、けい砂、ソーダ灰、硝酸ソーダ等を加えて加熱溶解し、粗金銀の地金(純度92~97%)を作る。これを電気分解して純度の高い金・銀地金にする。
  3. 混こう法
     混こう法は、原始的な方法で、ブラジルやアフリカなどで非公式に一人で金を掘っている人達(ガリンペイロと呼ばれる)がこの方法を用いている。しかし、蒸気となった水銀を吸引すると、水俣病と同じ症状になるため、近年問題視されている。金銀鉱石を水中で粉砕してどろどろのもの(鉱泥)を作り、これに水銀を加えると、金銀と水銀の化合物になる。この合金に熱を加えると、水銀だけが水銀蒸気となって蒸発し、金と銀が残る。
  4. ヒープリーチ法
     80年代に入ってから開発された歴史の浅い製錬方法で、同時に大量に処理することができるため、コストが低廉である。このため、オーストラリアやアメリカなどの低品位鉱の開発を可能にした。しかし、天候に左右されやすいことやシアン化合物という猛毒を使用することから、環境問題を引き起こしやすく、この方法を使用する場所は限られている。
     ヒープリーチ法は、野外に水を通さない合成樹脂のシートを敷いた浸出パッドを置き、その上に金鉱石を積み上げ、鉱石の上からシアン化合物を噴霧する。しばらくすると、金がシアン化合物に溶けてパッドに溜まる。この溶液をろ過し、これに亜鉛の粉末を混ぜると、金が析出して沈殿する。

第3項 金の採掘から製錬まで

菱刈鉱山に見る金地金ができるまでのプロセス
 菱刈鉱山(鹿児島県)は鉱石1トン中に含まれる平均金量が約40グラムと、世界でも有数の高品位鉱(世界平均3~5グラム/トン)として有名。年産は約7トンで、日本の金生産の大半を占める。


 

第4項 中古金スクラップ-スクラップからの回収・二次供給-

金の二次供給とは、一度、精錬・加工・販売された金製品をスクラップとして回収して、これを再び熔解・製錬して、高品位の金として市場に供給される回収金の供給をいう。携帯電話など電子機器の部品の素材として使われ、その後、廃棄処分されたものから再び取り出した金なども含まれる。
 空気中でも水中でも酸化・腐食せず、また高熱で加熱・溶解しても安定的な性質は変わらないという金の化学的性質が、こうしたリサイクルを可能にしている。このようにリサイクルされた金は、「回収金」または「中古金スクラップ」などとよばれている。
 金の二次供給の量は、金価格の動きに敏感で、金価格が上昇すれば増加し、下落すれば減少する傾向が顕著である。例えば、金価格が低迷を続けていた1999年の二次供給は620トンであったが、金価格が上昇トレンドに入ったことが確認された2001年には749トン、2002年は874トン、2003年は991トンと増加している。2004年は金価格の上昇にもかかわらず金の二次供給の量は881トンと減少したが、2005年以降は900トン以上の高水準を維持しており、2012年は1,616トンとなっている。

第5項 公的部門からの売却
  1. 公的機関の金準備と売却
     世界各国の政府・中央銀行及びIMFなどの公的機関は、その準備資産の一部として金を保有している。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の資料によれば、2013年7月の公的機関の金の準備高は、米国の8,133トンを筆頭に、ドイツの3,391トン、IMFの2,814トン、イタリアの2,452トン、フランスの2,435トン、中国の1,054トン、スイスの1,040トンと続いており、世界全体では30,100トンとなっている。これらの公的機関が保有する金準備の総計は、世界の金鉱山の金の生産量の約10年分に相当する。
     公的機関は、緊急の資金調達の必要性や資産の組み替え需要などから保有している金を売却することがある。また、金の準備高を高める場合には、新たに金を購入することもある。こうした公的機関による金の売買取引は、時として数百トンの規模に上ることもあり、金相場に大きな影響を及ぼす。ちなみに公的機関による金の取引は、当然のことながら購入も売却もあり得るので、「公的機関による金の売却」という場合は、量的には1年間の売り買いの差し引きのネット分を指す。
  2. ワシントン合意
     冷戦終結後の1990年代初頭、情報通信技術に支えられた米国経済は、インフレ不安を伴わない好景気を実現していた。このためベルギー、オランダを中心とする欧州の中央銀行は、高利回りの米国債による運用を増やすために、金の売却または貸出し(リース)によって金を大量に国際市場に供給し始め、金相場は長期的に低迷することになった。
     特に1999年5月に、英国が金の準備高を715トンから300トンの水準まで削減することを発表すると、金の国際価格は1トロイオンス当たり280ドルと約20年前の水準にまで下落し、鉱山会社からこうした中央銀行の動きに対する批判が相次いだ。さらに同年夏には金価格は1トロイオンス当たり260ドルを割り込み、金価格の下落が公的機関の資産を大きく目減りさせていることへの危機感が募った。
     こうした事態に対処するため、1999年9月26日、欧州中央銀行 (ECB:European Central Bank)と欧州14ヵ国の中央銀行は、IMF総会において「金の売却と貸出しに関する合意」を発表した。これが通称「ワシントン合意」と呼ばれる共同声明で、その骨子は以下の通りである。  

    ・ 金は引き続き重要な外貨準備と認識する。
    ・ 決定済みの売却を除いて市場において金の売り手として参加しない。
    ・ 決定済みの売却については、今後5年間、協調的に実施するものとし、年間の売却量は400トン以下、5年間の売却量の合計は2,000トンを超えない。
    ・ 金の貸出し、先物取引、オプション取引なども拡大しない。

    以上の合意には、署名した15行の他にも、米国、日本、IMF、国際決済銀行:BIS(Bank for International Settlement)が同意したため、この合意の制約に従う公的機関の金準備高は世界全体の約85%に及ぶこととなった。その結果、公的機関による金の大量売却に対する懸念は払拭され、ワシントン合意成立直後の10月には、1トロイオンス当たり320ドルまで急騰した。初回のワシントン合意のもとで売却された金準備高は2,008トンとなった。
  3. ワシントン合意の延長とIMFの金売却
     2004年3月、ワシントン合意がさらに5年間延長された。金売却の上限は500トンに引き上げられたが、第2次合意のもとで売却されたのは1,898トンにとどまった。2009年8月には第3次ワシントン合意の延長が決定され、売却上限は400トンに引き下げられた。また、IMFが売却する場合、枠内で行うことも盛り込まれた。さらに、IMFは2009年9月、金403トンの売却を決定し、2010年12月までに予定量の売却を完了した。
第6項 生産者ヘッジ-鉱山会社の売りヘッジ-
  1. 先渡し売り(フォワード・セール)
     鉱山会社は、金価格の値下がりが予想される場合に、将来生産する予定の金を、先物取引や先渡取引を利用して、現在の価格で売っておくオペレーションを行うことが多々ある。
     統計上は、1年間に現物で決済された金の供給量が、供給項目の「ヘッジ」に含まれることになる。
     ただし、金価格の長期的な上昇が予想される場合、こうした鉱山会社による売りヘッジはほとんど行われない。むしろこのような局面では、鉱山会社のヘッジの買戻しが進むため、「ヘッジ」は需要項目の一つとして表れることになる。例えば、金価格が低迷していた1999年までは供給項目のヘッジの欄(売りヘッジ)に数字が現れていたが、金価格が上昇過程に入った2000年から2010年までは需要項目のヘッジ(売りヘッジ解消)に数字がシフトした。2011年は後半、価格が大きく下落する局面があったために、供給項目にシフトしたものの、2012年には再び需要サイドに転じ、40トンとなった。
  2. オプション・ヘッジ
     鉱山会社のヘッジ戦略には、先渡し売り以外にもオプションのような高度なデリバティブ取引が用いられる。金のオプションとは、金を一定の条件で購入または売却する権利のことである。金のオプションを取得して、実際に金を購入または売却することを「権利行使」という。
     GFMSのGold Surveyにおける供給項目の「ヘッジ」に含まれるオプション・ヘッジとは、1年間に権利行使されたプット・オプション(売る権利)の数量からコール・オプション(買う権利)の数量を差し引いたネットの数量である。このネットの数量がマイナスになると、これは需要項目の「ヘッジ」に計上されることになる。
  3. ゴールド・ローン
     金の鉱山会社は、資金調達の一手段として、「銀行から」金を借り入れ、これを市場で売却するというオペレーションを行うことがある。金の最終的貸し手は主として中央銀行であり、借り手は鉱山会社や需要家である。こうした資金調達の方法を「ゴールド・ローン」といい、金を貸し借りする際の金利を「リースレート」とよぶ。
     ゴールド・ローンは、貸し手である中央銀行にとっては、本来、金利のつかない金を運用できるというメリットがあり、借り手である鉱山会社や需要家にとっては、比較的低レートで調達した金を売却することで、低コストで資金調達ができ、しかもリスク・ヘッジもできるというメリットも一部にはあるが、最近あまり行われていない。借り手である鉱山会社は、通常は自らが生産する金をもって返済に充てるが、生産量が返済量に達しない場合や、自ら生産するよりも市場で金を購入したほうが安い場合には、市場で金を買い上げて、これを返済に充てる。
第7項 退蔵放出

金の退蔵とは、広義では公的機関や民間企業や個人が金を金融資産として保有することをいうが、 統計上は公的機関を除いた民間部門の退蔵を指す。
 金の供給項目における「退蔵放出」とは、民間部門において投資目的などで退蔵されていた金が売却・放出された量を示す。供給項目の「退蔵放出」に数字が出ているということは、金の投資需要がネットでマイナス(即ち「売り越し」)であったことを意味する。
 逆に、供給項目の「退蔵放出」に対応する、需要項目の「投資」に数字が出ているということは、金の投資需要がネットでプラス(即ち「買い越し」)であったことを意味する。過去10年は一貫して買い越しとなっており、2012年は294トンの正味退蔵投資となった。

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第3節 金の需要

金の需要は、宝飾品用、工業用、歯科用、メダル・貨幣用などの加工用需要と、有事における備えや投資目的による金の保有といった退蔵用需要とに大別される。
  GFMSの調べによれば、2012年末時点での金の地上在庫174,100トンの内訳は、宝飾品が49%、公的保有金が17%、私的保有金が20%、その他加工品が12%、所在不明が2%となっている。

第1項 宝飾品需要

2012年の世界の金の総消費量4,477トンのうち1,893トン(42%)は宝飾品需要で占められている。消費量に占める宝飾品需要の比率は2008年前後までは60%前後で推移していたが、2009年以降は比率を下げ、40%前後で推移している。2012年はインドにおける宝飾品需要の減少が主な要因となって前年比4.2%減少となった。
  ただ、日本の宝飾品需要は17.5トン(世界第17位)で、国内の金加工量全体(126.1トン)の14%と、それほど多いわけではない。
  宝飾品消費量が多い国は、2012年では、インド(552トン)、中国(519トン)、米国(108トン)、ロシア(70トン)、トルコ(62トン)の順となっている。

第2項 エレクトロニクスその他の工業用需要

金は、展延性、熱伝導性、電導性、非腐食性、抗酸・アルカリ性などの優れた物質的特性を持っているため、電気接点材料や、半導体チップ、集積回路の材料として、エレクトロニクス産業全般にわたって広く用いられている。
 最終用途消費量 (3,890トン) でみた場合、世界的には、金のエレクトロニクス分野での消費量は285トンで7%のシェアに過ぎない。東アジアを中心としたエレクトロニクス部門の需要増を受け、2007年までその需要が拡大したが、2008年から2009年にかけては景気後退の影響により、エレクトロニクス分野の加工量は減少したものの、 2010年には世界的な景気回復の動きに伴い、消費量は326トンで前年比18.9%増と大幅な伸びをみせた。しかしながら、2012年には欧州債務問題に伴う世界経済の低迷や価格主導での代替金属へのシフトが進み、エレクトロニクス需要は再び11.1%の減少となった。

第3項 歯科用需要

優れた非腐食性、抗酸・アルカリ性、展延性という性質を持つ金は、人体に悪影響を及ぼさず、加工も容易であることから、歯科医療用の材料として最適な金属と言える。
 最終用途消費量で見た場合、2012年における金の歯科分野での消費量の比率は、世界的には39トンで1%とシェアが小さく、 近年の金価格上昇等により、その他素材での代用が進み加工量が減少している。

第4項 メダル・貨幣用需要

金は、メダルや各国の中央銀行が発行する法定貨幣を製造するためにも用いられる。こうした用途に振り向けられる金の消費量の比率は、少しずつ増えている。ただし、2012年は、トルコや米国において、投資目的の金需要の減少を背景に公的コインの鋳造量が大きく減少したことなどから、前年比18%減の200トン(最終用途消費量の5%)となった。
 ちなみに、法定金貨は、一般の通貨として額面どおり利用することができるが、通常は金としての 商品価値のほうが通貨としての額面価値を大きく上回るため、貨幣として代金の支払い等に用いられることはあまり考えられない。
 例えば、2005年日本国際博覧会記念貨幣の1万円金貨は、法定金貨としての額面は1万円であるが、15.6グラムの純金が用いられているので金としての当時の商品価値だけで2,700円/グラムとして42,120円の価値があった。実際、造幣局によるこの金貨の販売価格は40,000円であった(いわゆるプレミアム型の記念貨幣)。

第5項 退蔵投資

金の退蔵投資の需要とは、公的機関や民間企業や個人が金を金融資産として保有しようとすることをいう。その統計上の取り扱いについては、第2節第7項を参照のこと。
 金は、その運搬・換金が容易という性質から、古くから、戦乱・内乱といった有事に対する財産的な備えとして退蔵されてきた。
 また、急激なインフレが予想されるような場合には、金を保有・退蔵して、貨幣価値の急落に備えようとする需要も生じる。
 さらには、金の価格の動きに思惑を張って、積極的に利益を追求しようとする投資目的から金を保有・退蔵しようとする動きも、金相場の動向によっては見受けられることがある。2012年は294トンの正味退蔵投資となった。

第6項 金ETFによる投資需要

2003年以降、新たな金融商品として金ETF(上場投資信託)が登場した。金ETFは、金を信託財産とする信託契約において発行される有価証券(受益証券)を取引所に上場するもので、株と同様、証券取引所で売買されている。金ETFは通常、金の現物を裏付けとしているため、ETFの残高に応じて金の現物を購入して保有することになり、ETFの残高が増加すると、金需要の引き締めの要因となる。2003年3月にオーストラリア、11月に英国、2004年11月に南ア、米国の証券取引所に上場され、200トン以上の投資需要を創出した。その後、シンガポールやフランス、ドイツ、オランダ、イタリア、ベルギーでも金ETFが上場され、価格への影響力を増す中で、2008年6月には東京証券取引所、7月には香港証券取引所が相次いで金ETFを上場し、アジア市場における存在感も高まっている。なかでもニューヨーク証券取引所、シンガポール取引所、東京証券取引所と香港証券取引所に上場されているSPDR®Gold Shares(旧streetTRACKs Gold Shares)の金保有量は、 2012年末時点で1,351トンに達した。
 金ETFは、保管の手間などから現物への投資に消極的だった年金基金や個人投資家等を中心に、オルタナティブ投資先の一つとして注目を集め、特に欧州債務危機等を背景に安全資産としての金への関心が高まった2012年は、年末時点で、世界の主要市場における金ETFと類似商品の金保有残高は2,691トンに達し、2012年の金鉱山生産量(2,861トン)の約94%に相当する規模にまで拡大した。しかし、2013年に入って、米国における景気回復の兆しや欧州債務危機の懸念緩和などを受けて投資家の安全資産志向が減退すると、金ETFから大量の金が放出され、2013年8月末時点の世界の金ETFの金保有残高は1,265.5トンまで減少した(うちSPDR?Gold Sharesは921トンで、約7割のシェアを占める)。
 我が国においては、2007年8月に大阪証券取引所が、金価格に連動する投資成果を目的として発行された有価証券(金価格連動目的発行有価証券)を投資対象とするファンド(投資信託)の受益証券を上場したものが第1号である、具体的なスキームとしてはロコ・ロンドン金価格に連動する債券に投資する投資信託となっている。
 一方、2007年9月の信託法改正により、商品を信託財産とする受益証券を発行する信託が認められたことを受け、2008年6月、東京証券取引所は金の現物型ETF(金融商品取引法第2条第1項14号、第17号に基づく信託受益証券を上場する外国商品現物型ETF)を上場したが、同時期に改正投資信託法施行令が施行され、ETFの連動対象となる指標の範囲が拡大されたことを受け、現在は金融商品取引法第2条第1項第10号、第11号に基づき、外国ETFとして上場されている。
  また、2013年3月には、日経・東商取金レバレッジ指数、インバース指数に連動したETN(Exchange Traded Note:上場投資証券。ETFと同様に価格が商品価格や株価などに連動する投資商品だが、発行体金融機関がその信用力をもとに価格の連動性を保証する点で、ETFとは異なり、証券に対する裏づけ資産を必要としない。)が東京証券取引所に上場された。同レバレッジ指数は日経・東商取金指数の2倍の変動率で動く指数で、インバース指数は日経・東商取金指数と逆の変動率で動くように設計された指数である。
  これら指数に連動するETNは、証券取引所を通じた新たな金投資手法として注目を集めている。ブル型(レバレッジ指数連動)ETNにおいては、相場の上昇局面においては2倍の利益、また、ベア型(インバース指数連動)ETNにおいては、相場の下落局面において利益を追求するといった、従来のコモディティETF等では実現できなかった投資手法等が可能となり、こうした投資スタイルを追求する投資家が新たにコモディティ投資に参入することで、商品市場の活性化につながるものと期待される。

第7項 生産者ヘッジ解消 ― 鉱山会社の売りヘッジの買戻し・ヘッジ外し―

金価格の値下がりが予想される場合に、鉱山会社は一般に、価格下落リスクを避けるため、売りヘッジを行う。しかし、金価格の長期的な上昇が予想されるような局面では、鉱山会社は、売りヘッジは行わずに、むしろ短期的な価格下落局面で売りヘッジしていた金のポジションの解消(買戻し)を進める。
 こうしたヘッジ外しのオペレーションは、需要項目の「ヘッジ」として表れ、その数値は、年間ベースで見た買戻しの数量を表しており、金価格の下支え要因となっている。

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第4節 金の価格変動要因

貴金属の価格に影響を及ぼす変動要因としては、景気・インフレ動向、通貨の動向、株式・債券の 動向、国際情勢(政治・経済)、ファンド・マネーの動向など、貴金属市場以外の要因と、鉱山会社の供給事情やヘッジ戦略、アジアや中東地域での消費・投資動向、環境規制などによる工業用需要の変化など、貴金属の各商品独自の要因とに分けられる。

過去の金市場を振り返ると、1970年代のオイルショックに伴うハイパー・インフレや中東情勢、あるいは旧ソ連絡みの緊張(1979年12月のアフガニスタン侵攻など)などから金投資が活発化したことがある。また1987年のブラック・マンデー(ニューヨーク株式市場の暴落を発端とした世界同時株安)の時に急騰した一方、1990年代に入ると湾岸戦争にも旧ソ連のクーデター発生にも過去ほどの反応を示さなかった。しかし2001年9月11日の米同時多発テロをきっかけとする米国の対テロ戦争や日本のペイオフ解禁(銀行預金の保証金額を最大1,000万円とする制度)により、金投資が復活しつつある。2004年夏からの原油高騰、2007年に入ってからは米国のサブプライム問題に伴う米連邦公開市場委員会(FOMC:Federal Open Market Committee)の利下げとあいまって、インフレ懸念の高まりによる、金をはじめとするコモディティへの投資資金のシフトが起こったが、2008年夏頃の原油価格急落にともなうファンドのポジション解消、同年秋のリーマンショック以降のファンドの縮小が進み、金も調整局面を迎えた。しかし、2009年に入ると、欧米における財政危機や通貨不安、新興国における資源インフレに伴うインフレ・ヘッジ・ニーズの高まりなどを背景に、金を買う動きが活発化し、 2011年8月から9月にかけ一時的に、ロコ・ロンドン・フィキシングプライスが1800ドルを突破した。2012年における金の年間平均価格は1,668.98ドルとなり、2001年以降、一貫して上昇傾向にあるが、近年、上昇ペースは減速している。なお、円建て価格をみると、2012年末から2013年初頭にかけて安倍政権による金融政策等の影響により円安が進行したことを受けて、円建て価格が急騰し、東商取においては、2013年2月7日、先限価格が5,081円/kgをつけ、史上最高値を更新した。

第1項 世界経済動向
  1. 景気・インフレ動向
     一国の景気動向は、その国における生産、消費活動および投資活動(設備投資、住宅投資、在庫投資)などの拡大・縮小によって判断される。当然、各国政策当局の目指すところは、インフレーションを誘発しない範囲内で生産・消費・投資などの経済活動の持続的な拡大を可能にし、雇用と所得の増大を実現し、福祉の充実を図ることにある。こうした各国、あるいは世界の景気動向と貴金属価格との関係は、大別すると次の三つにまとめることができる。

  2. (1)工業用需要

    景気の拡大は、貴金属の工業用需要を増大させ、貴金属価格の強材料となる。つまり、景気の拡大によって、エレクトロニクス産業や自動車産業、その他の工業用需要先の生産活動が活発化し、さらには設備投資が進むことで、工業用需要部門での消費が増大する。逆に、景気が縮小・後退すると、こうした部門の生産活動が落ち込み、需要が減退し、貴金属価格の弱材料となる。

    (2)個人の可処分所得
     景気の拡大によって個人の可処分所得が増加すれば、宝飾品や投資用需要を押し上げ、貴金属価格の強材料となる。特に中国やインドでは金の嗜好性が高く、これらの国における可処分所得の増加は金消費の拡大につながる。WGCによれば、2012年の中国の金宝飾品消費量は519トンに達し、インド(552トン)に次ぐ世界第2位の金宝飾品消費国となっている。インド経済は2010をピークに減速傾向が続いており、ルピー建て金価格上昇の影響もあって金宝飾品消費量が減少傾向にある。一方、中国における金宝飾品消費量は増加傾向にあり、インドに迫る勢いである。金宝飾品需要の動向を見る上では、インド、中国の経済動向にも注目したい。
      一方、2007年に774トンの金を消費したインドの一人あたり金消費量は17グラムであり、米国の約半分、中東諸国の約3分の1にとどまっているため、今後の経済発展によって、ますます金消費の拡大が見込まれる。また、景気拡大を背景にした株価などの資産価値の増大も、購買力の増加によって宝飾品や投資用需要を押し上げる。逆に景気の後退によって可処分所得や資産価値が減少すれば、宝飾品購入や投資用需要が減退し、貴金属価格の弱材料となる。

    (3)ヘッジ
     景気の拡大や過熱によってインフレが進行し、インフレ懸念が高まると、インフレ・へッジとしての投資意欲が促され、貴金属価格の強材料となる。逆に、景気の縮小や後退によってデフレ(物価の持続的な下落)が発生し、ディスインフレ(物価上昇率が高い状態から低い状態に移行していく過程)によってインフレ懸念が薄れると、インフレ・へッジとしての投資意欲が後退し、貴金属価格の弱材料となる。

  3. 為替要因
     貿易取引では、以下のようにドル建てで取引される貴金属価格にとって、ドル相場の上昇、あるいはドル高見通しはドル建価格での弱材料となるが、逆に他国通貨建価格表示での強材料となる。

    (1)米国及び消費国への影響
     ドル高によってドル建て資産(米国の国債、株式、不動産など)の価値が増大するため、これらを購 入しようという動きが助長され、投資資金が貴金属市場から流出する。欧州など貴金属の消費国ではドル高によってユーロ建て貴金属価格が上昇するため、貴金属を売却してドル資産を買う要因となる。

    (2)生産国への影響
     米国以外の貴金属を生産する諸国において、ドル高、生産国通貨安により生産国通貨建ての貴金属価格が上昇することで、売却価格がより高くなるため、長期的には生産量および輸出量が増大する。また、短期的にも売却による利ザヤが拡大するため、生産国からのフォワード・セールなどが増え、貴金属価格を圧迫する。例えば、金1トロイオンスの金価格が275米ドル、為替レートが1豪ドル=0.5米ドルの場合、豪ドル建て金価格は550豪ドルとなる。しかし、為替レートが米ドル高/豪ドル安となり1豪ドル=0.4米ドルになると、豪ドル建て金価格は687.5豪ドルとなる。米ドル建て金価格は同じだが、ドル高による豪ドル建て金価格の上昇で、オーストラリアの鉱山会社はより高い価格で金を売却できる。また、豪ドルが今後、上昇する可能性が高い場合、0.4米ドルのときにフォワード・セールを出しておけば、0.5米ドルに上昇した場合、137.5豪ドルの利鞘がとれる。

    (3)米国インフレとの関係
     ドルが上昇すると、米国の輸入コストが低下する結果、米国内の輸入物価が低下し、物価の上昇圧力(インフレ圧力)を抑える効果がある。これによって米国内のインフレが沈静化・抑制されるとともに、インフレ懸念を後退させるため、インフレ・へッジとしての貴金属投資の魅力が減退する。
  4. 金利動向
     金利動向は、基本的にその国の経済情勢と密接に関係している。金利動向を考える場合には期待インフレ(物価上昇)があることから、実質金利と名目金利(市場金利)を区別して考える必要がある。実質金利とは名目金利から期待インフレ率を引いたものである。

  5.  実質金利= 名目金利-期待インフレ率

     例えば、景気後退によって金融緩和が実施されて名目金利が低下すると、預貯金などよりも貴金属の魅力が高まる。また景気過熱や労働市場の逼迫、原油価格の上昇などによって物価上昇率の上昇が予想される(インフレ懸念が強まる)と、貴金属の値上がりが見込まれて投資資金が貴金属に向かうことになる。
     名目金利は、債券相場の利回りを目安にするため、インフレ率が一定の場合、債券相場の上昇(利回り低下)は貴金属相場の強材料、債券相場の下落(利回り上昇)は貴金属相場の弱材料と言える。
     ただし投資家にとって貴金属よりも債券が魅力的な投資先と見られる場合、貴金属が売られて債券が買われるという可能性もあり、債券相場と貴金属相場の関係を見る場合は、資金の流れを考える必要がある。

  6. 株式市場
     株式市場は、景気動向の重要な先行指標と見なされている。従って、株価の上昇は先行きの景気拡大を暗示すると受け止められ、個人の可処分所得の増大や工業用需要の拡大、さらにはインフレ上昇懸念をも高めるため、貴金属相場の上昇要因と考えることができる。
     しかし、近年では株式市場のみならず、金融・通貨市場や、現物や先物の商品市場において投機的資金の動きが影響力を増しつつあり、必ずしもこうした仮説通りにはならないこともある。つまり、投資資金がより有利な投資対象を求めてめまぐるしく動き、株価が上昇すると思えば、株式市場に資金が流入し、貴金属が有利と思えば、これらの資金が貴金属市場に流れ込んでいくといった事態がしばしば起こるようになった。そのため、株価の上昇は投資資金の株式市場への流入を意味するため、貴金属にとって圧迫要因、逆に株価の下落は投資資金の株式市場からの流出を意味するため、貴金属の支援要因になるケースが増えている。また、株式市場への警戒心理が強まった場合、リスク・へッジとして貴金属が買われ、あるいは貴金属のポートフォリオ比率が高められるといったような事態が起こることもある。
     例えば、2007年半ば以降、深刻化した米国のサブプライム・ローン問題に端を発する株価下落、 信用不安が一時的に金にも波及した。しかし、その後、株式やドルから引き揚げられた投資資金が代替投資先として金をはじめとするコモディティに流入し、ポートフォリオの再構築が進んだ。また、サブプライム・ローン問題がドル安につながったことも金をポートフォリオに組み込む動きにつながったと考えられる。
  7. ファンドの動向
     ファンドとは、正確な定義はないが、一般的には運用目的で集めた資金を指す場合と、より広く、運用資金を運用する投資スキームまで含めてファンドという場合がある。ファンドは規制当局に登録され、一般投資家から資金を集めることができるファンドと、登録せずに、富裕層や機関投資家といった特定の大口資金を集めるヘッジファンドなどに分けられる。1990年代は著名投資家ジョージ・ソロスのファンドがポンド売りで英国中央銀行を打ち負かしたり、ノーベル経済学賞受賞者を雇い入れたLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)が破綻するなど、ヘッジファンドが大きく取り上げられた。ヘッジファンドの運用資産残高は2000年に4,000億ドルであったのが、2005年1月には1兆ドルを超え、その後も拡大を続け、ヘッジファンドの運用方針の変化がそれぞれの金融商品の価格変動要因にもなってきた。しかしながら、2008年9月の証券大手リーマン・ブラザーズの破錠以降、投資家によるヘッジファンドからの資金引き揚げがすすみ、 米調査会社ヘッジファンド・リサーチ社によると 2007年末時点で約1兆8,800億ドルだった運用資産残高は、 2011年3月末で1兆7,534億ドル、2012年末で2兆2,500億ドルと推計されている。
  8. 投資規制強化の動き
     政府による投資規制の強化も、商品相場に影響を与える。商品先物取引の規制強化に向けた規制当局の取り組みは、2008年にWTI原油価格が100ドル/バレルを超えてから活発化し、特に米国の商品先物取引委員会(CFTC: Commodity Futures Trading Commission)は、取引の実態が不透明とされる店頭デリバティブ取引、ヘッジ・ファンドの規制強化を唱え、海外の規制当局との横断的な連携を強めていった。
     その後、2007年8月に表面化したサブプライムローン問題、2008年9月以降のリーマン・ショックを経て、2010年7月、米国において包括的な金融制度改革を目的とした「金融規制改革法案(ウォールストリート改革・消費者保護法)」、いわゆる「ドッド・フランク法」が成立した。
     ドッド・フランク法は、金融市場、商品先物市場、OTCデリバティブ取引の規制や消費者保護などを対象とした横断的なもので、財務長官を長として各関連規制当局の長で構成される金融安定監督評議会(FSOC: Financial Stability Oversight Council)が設置され、システミック・リスク防止に向けた体制が整備された。この法律に基づき、現在、店頭デリバティブ取引などに関する詳細且つ具体的な規則の策定がCFTCとSECによって行われてきたが、作業が難航しており、2012年7月までに実施に移される予定だった規定の多くが未実施のままとなっており、2013年7月時点で実施された規定は全体の約4割にとどまっているといわれている。
      CFTCにおいては、主に以下のような分野において規則の策定が進められてきた。①CFTCとSEC(Securities and Exchange Commission:証券取引委員会)のデリバティブ規制における権限の範囲の明確化(CFTCはスワップ取引、SECは証券派生スワップをそれぞれ所管)と連携強化、②市場参加者、金融機関、スワップディーラー、運用会社等への規制、③店頭デリバティブ取引の標準化(一部例外あり)、④スワップ取引の規制(市場操作防止策、規制された中央清算機関の利用の義務化(ただし、スワップ取引を頻繁に行わず、かつ、リスクヘッジ目的である場合には免除される)等)、⑤取引所取引の直接規制の対象範囲を拡大(従来、農産物市場へは建玉制限等の直接規制があったが、エネルギー、貴金属市場にもこれを導入。ただし、上記④やヘッジの定義によっては現状と実質的に変わらない可能性もある。)、⑥市場操作や詐欺行為に対する権限強化(市場操作行為判定基準の簡素化と厳格化)である。
      実施される規則の内容によっては、投資家や市場参加者のコモディティの取引に一定の制約が課される可能性があり、これによって貴金属市場の相場も影響を受けるものと見込まれる。
第2項 金独自の価格変動要因
  1. 公的機関の売却
     各国中央銀行や国際機関による金売却・放出の動きは、金価格の変動要因として市場に与えるインパクトは大きく、近年では最大の変動要因といっても過言ではない。1997年には通貨統合を控えた欧州の中央銀行だけでなく、オーストラリアの金準備売却や、スイスの金準備売却案などが表面化し、金価格が12年ぶりの300ドル/トロイオンス以下に下落するきっかけとなり、1999年には英国の金準備売却の発表を背景に20年ぶりの安値を付けるに至った。また欧州の中央銀行15行はワシントン合意により1999年から5年ごとに売却上限を見直した。当初は上値を抑える要因としてみられたが、2000年以降、金が上昇する中、売却上限が定められており、市場では織り込み済みと見られるようになった。逆に中国など一部諸国は金準備を増加させはじめており、今後は輸入の動きも関心を集める可能性も出てきている。
     近年では金よりも魅力的な金融商品が多く現れたため、金準備をドルなど他の利付き資産に組み換える動きも見られる。ただ97年以降のアジア通貨危機(タイ・バーツ急落をきっかけとする東アジア経済の混乱)で見られたように金が為替や証券資産に対するヘッジとなることは疑いようがない。また世界が新たな通貨体制構築を模索する過程での政治的な要素も含んでおり、金が重要な資産であることには変わりがない。
  2. 鉱山会社のヘッジ
     鉱山会社は、将来の金価格下落に備えてヘッジ売りをする。ただ金価格が下落傾向にある場合はヘッジが成功して収益確保に結びつくが、価格が上昇に転じるとヘッジの評価損に追証拠金が請求され、経営危機につながるケースが見られた。ガーナの鉱山会社アシャンティ・ゴールドは1999年9月に金価格が急騰したときにヘッジに多額の評価損を抱え、市場ではヘッジが買い戻されるとの見方が台頭し、価格上昇要因となった。同社は、その後の鉱山業界再編の中で南アフリカのアングロゴールドに買収され、ヘッジがさらに減らされることになった。残っているヘッジ玉がさらに縮小されれば金価格上昇の支援要因になるが、金市場が弱気に転じると、ヘッジ売りが増加して金価格の上値を抑える要因になる。なお鉱山会社のヘッジの動向は、GFMSが発表する四半期報告「グローバル・ヘッジブック・アナリシス」で確認することができる。
     2006年には、プレーサー・ドームを買収したバリック・ゴールドが、プレーサー・ドームが保有していたヘッジ・ポジションを買い戻したことなどにより、生産者ヘッジの解消が増加している。さらに、ニュークレスト・マイニングやアングロゴールド・アシャンティ、キンロスによるヘッジ解消も、最近の金価格高騰に拍車をかける結果となった。さらに、2007年にはニュークレスト・マイニングとバリック・ゴールドがそれぞれ107トンと93トンのヘッジ解消を行ったほか、ニューモント、リヒール、ゴールド・フィールズ、ブエナヴェンチュラが合計158トンのヘッジ解消を行った。また、2010年には、アングロゴールド・アシャンティが108トンのヘッジ解消を行ったが、現在は生産者によるヘッジ契約量が残り少なくなっており、2010年の正味ヘッジ解消需要は前年比56%減の103トンとなった。今後も生産者ヘッジの解消の動きは鈍化するものとみられるものの、2011年は11年振りに売り越し(▲6トン)に転じた。ここ10年の金価格の上昇基調の恩恵を受けようと売りヘッジの解消を進めてきた鉱山会社は、歴史的な高値圏の中、再び生産予定の金に対して売りヘッジをかけ始めている。
     ちなみに1999年9月に金価格が急騰したとき、リースレート(貸出金利)も急上昇した。リースレートは需給のバロメーターのひとつであり、上昇すれば金価格の支援要因、低下すれば圧迫要因となる。
  3. 日本のペイオフ解禁
     日本では、2002年4月に定期性預金、2005年4月に普通預金のペイオフ(破綻金融機関の預金払い戻し額を元本一千万円とその利息に限る措置、決済用預金は除く)が解禁された。日本ではそれまで銀行に預けておけば全額が保護され、利息も付いていたが、ペイオフ解禁によって預金もリスクのある資産になり、大口預金者を中心に資金を金地金に移す動きが出た。「金貨千両箱」等による金地金の売上好調などにその傾向が見られる。
  4. 南アフリカの新鉱物資源法
     かつてアパルトヘイト(人種隔離政策)を採っていた南アフリカ政府は、2002年10月、黒人の地位向上を目的とした鉱業憲章を発表した。同憲章には、黒人の経営参加や人材育成、黒人組織からの資材調達などが盛り込まれた。黒人組織の所有割合(既存の鉱山の権益)は2009年までに15%、2014年までに26%まで増加させるとの目標が定められており、鉱山における新規投資に影響を与えている。
  5. アジア、中東地域の需要動向
     世界各国の中でもアジア及び中東地域での需要動向は、世界の金価格に及ぼす影響が大きい。これは1980年代以降、欧米での投資需要が伸び悩んだ反面、経済成長を背景としたアジア地域での金購入や、オイル・マネーによる中東産油国での金投資が、世界の金投資需要を支えたことが一因となっている。
     東アジア・インド地域は世界最大の金消費地で、90年代後半には金消費のベスト10に7カ国が顔を連ねている。アジア人の金嗜好の強さは世界的に有名だが、インド・中国といった膨大な人口を抱える国は、1990年代に入ってから金需要が大きく伸びた。ともに目覚しい経済成長を遂げている国で、同時に金取引の自由化が進んでいる。中国については、それまで中国人民銀行が公式の金価格を発表していたが、2002年10月に上海黄金交易所での取引が開始され、金価格は市場で決定されるようになった。また2005年7月には中国人民銀行がドル・ペッグ制を廃止、通貨バスケットに連動させることを発表し、人民元の切り上げを行った。また個人の金地金保有も解禁され、完全自由化の方向に進んでいる。 2012年の年間出来高は5,916,745枚(重量換算5,916.7トン)に達した。
     東アジア・インド地域の金需要が伸びている大きな要因は、経済成長とそれに伴う可処分所得の増加にある。金は豊かさの象徴と言っても過言ではなく、その国の景気の浮沈が金需要を左右する。近年、東アジア・インド地域における経済発展の勢いは弱まってきているものの、依然として世界の金需要の大きなシェアを占めており、その動向に注視する必要がある。
     中東地域は地理学上、アジア大陸に含まれるが、金の需給統計では個別に扱われている。東アジア・インド地域と同様、金嗜好が強く、金市場では「中東筋」の名でその売買動向が注目される。また、中東の金需要は経済基盤でもある石油収益の増減によって左右される。


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