検定試験テキスト -貴金属取引の基礎知識- - 学習

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第2章 銀の商品知識

第1節 銀の商品特性

第1項 性質と用途
  1. 貴金属らしからぬ貴金属
     銀は主として硫化物鉱床中に存在しており、自然銀・砂銀として産出されることは極めてまれであった。そのため、かつては砂金の形態で産出される金よりも産出量が少なかった時期もあり、その希少性ゆえに20世紀に入るまでは金と並んで主要通貨として使用されていた。また、その白銀色の美しい色合いゆえに、銀は太古の昔から宝飾品の材料としても珍重されてきた。
     しかし、銀の精錬技術の発達と、19世紀に入ってからの大銀山の発見によって、銀の生産量は増加し、有史以来、人類が採掘・精製した銀の総量は100万トン以上に達すると言われており、この数字は金の約16.6万トンを大幅に上回っている。加えて銀については回収システムも既に整備されており、その供給規模の大きさゆえに銀の希少性はもはや失われたという見方も多い。
     こうした供給規模の大きさに加えて、硫化しやすく、黒く変色しやすい化学的性質も、「貴金属」のイメージを大きく損なう原因となっている。
  2. 物理的・化学的特性
    銀の物理的・化学的性質に係る基礎的なデータは下記の通り。
     ・ 元素記号Ag、原子番号47、周期表1B 族・銅族の金属元素。
     ・ 原子量107.8682、比重10.50(20℃)
     ・ 融点961.93℃、沸点2,162℃( 銀の融点は、高温度計の温度補正の定点とされており、温度の基準とされている)。

    (1)物理的性質
    ①展延性
     金属の中では金に次いで展延性に優れ、圧延すると0.2ミクロンの銀箔に加工することができるなど加工性に優れる。

    ②色
     色は白銀色。可視光線に対する反射率は90%と、金属の中で最も高い。光の反射率が極めて高いことから、ラテン語では「輝くもの」(argentum、元素記号Agの由来)と呼ばれ、日本語では「しろがね」(白い金属)と呼ばれた。

    ③熱線の反射率
     赤外線に対する反射率は98%と、金に次いで高い。このため、銀製の鍋を用いると、銀が熱線をほとんど反射してしまうため、鍋はあまり高熱にならず、料理の焦げ付きを回避することができる。

    ④熱伝導率
     熱伝導率は428 W/m・K(0℃)と、金属の中で最も熱を伝えやすい。

    ⑤電気抵抗率
     電気抵抗率は1.47×10-6Ω cm(20℃)と、金属の中で最も電気を通しやすい。

    ⑥電子ボルト(電子親和力)
     銀の電子ボルトは非常に小さいため、銀の表面から電子を放出させるのに必要なエネルギーは極めて小さい。銀のこうした性質を利用して、電子工業において様々な応用がなされている。

    ⑦常温時効と合金
     常温時効とは、加工硬化によって強度を高めた銀を常温で放置すると、再結晶し、強度が低下(軟化)する性質をいう。しかし、銀は多くの金属と優秀な合金を作ることができ、合金にすることで常温時効という欠点を補うことができる。


    (2)化学的性質
    ① 硫化作用
     銀は、大気の水分中のオゾンや空気中の亜硫酸ガスや硫化水素と反応して、表面に硫化銀を作り(硫化)、黒く変色し、光沢を失っていく。

    ② 溶解性
     銀は、硝酸、熱濃硫酸、シアン化合物に溶解する。

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第2節 銀の供給

銀の供給源は、鉱山生産と二次供給が中心的な存在である。公的機関による銀の売却もあるが、供給全体に占める割合は金と比較すると小さい。鉱山会社による売りヘッジも、比率としてはわずかなものに過ぎない。

第1項 鉱山生産 -一次供給による新産銀-

The Silver Instituteの調べによれば、2012年の世界の鉱山における銀の生産量は24,478トンで、この年の銀の総供給量32,604トンの約75%に相当する(以降、銀の需給統計に関する数値は、ことわりのない限り、The Silver Instituteの"World Silver Survey 2013"による)。

  1. 地域別・国別生産量
     銀の鉱山生産では、北米と中南米が世界の2大生産地域である。The Silver Instituteの調べによれば、2012年の国別の生産量は、メキシコ(5,046トン)、ペルー(3,461トン)、中国(3,640トン)、オーストラリア(1,770トン)、チリ(1,511トン)の順となっており、ロシア、ポーランド、ボリビア、米国などがこれに続く。
     中でも、政治・経済情勢が不安定なメキシコ、ペルーが、生産国の上位に入っていることに留意する必要がある。
  2. 鉱山生産の形態
     鉱山生産の形態は、銀鉱石からの生産、即ちプライマリー(primary)と、金や他の鉱石を精製する際の随伴生産・副産物に大別され、プライマリーは鉱山生産の約20%に過ぎない。
     銀は、銅、亜鉛、鉛からの副産物としての生産量が多いため、これらの非鉄金属の産出量が銀の生産高に大きく影響することになる。以下は、銀の生産形態の分類である。  
    • 単純銀鉱生産またはプライマリー
        - 鉱石1トン当たりの銀含有量が300グラム以上の場合。
        - 世界の鉱山生産全体の20%程度と推定。
    • 共同生産またはコー・プロダクション(co-production)
        - 鉱石1トン当たりの銀含有量が100グラム以上300グラム未満の場合。
        - 銀と非鉄金属との生産割合や価格総額が比較的拮抗しているケース。
        - 非鉄金属と銀双方の価格動向によって、生産計画は大きな影響を受ける。
        - 世界の鉱山生産全体の40%程度と推定。
    • 随伴生産またはバイ・プロダクション(by-production)
        - 鉱石1トン当たりの銀含有量が100グラム未満の場合。
        - 非鉄金属の生産割合や価格総額のほうが、銀のそれを大きく上回っているケース。
        - 主たる生産物は非鉄金属であって、その生産計画は銀価格の影響は受けない。
        - 世界の鉱山生産全体の40%程度と推定。
第2項 中古銀スクラップ -スクラップからの回収・二次供給-

銀の二次供給とは一度使用された銀が、回収され、再生処理されて、再び市場に供給される回収銀の供給をいう。 銀は、貴金属の中では最も供給規模が大きいため、その回収システムは最も発達しており、コストも安い。
 近年では、二次供給による銀の供給量は6,000トンから8,000トン前後で推移しており、供給全体に占めるシェアは約20%にも及んでいる。特に写真フィルムは回収・再生のシステムが確立しており、銀の安定供給に貢献している。

第3項 公的部門からの売却

金の公的機関による売却とは、各国の中央銀行及びIMFなどの公的機関が保有している金の売却を意味するが、銀の場合、その公的売却とは各国政府による政府保有在庫の放出を意味する。
 銀の公的売却は、かつては年間500トン前後であったが、冷戦終結に伴う軍需用備蓄の必要性の低下により、銀の政府保有在庫の取り崩しを進める傾向(例えば、米国防省の国防備蓄の一部放出)にあり、年間2,000トンを上回る公的売却が行われることもあった。しかしながら銀の公的売却は、金と比較すると供給全体に占めるシェアはそれほど大きいわけではないため、銀価格への影響はあまりない。2012年における公的売却量は229トンで、総供給に占めるシェアは1%に満たない。

第4項 生産者ヘッジ -鉱山会社の売りヘッジ-

銀についても鉱山会社は、価格の値下がりが予想される場合に将来生産する予定の銀を先物取引や先渡取引を利用して売りヘッジをかけたり(フォワード・セール)、資金調達目的でシルバー・ローンを利用することがある。
 金と同様に、統計上これらの数字は、フォワード・セールとシルバー・ローンによる売却量が、フォワード・セールの現物決済量とシルバー・ローンの返済量の合計を上回れば、その差が供給項目の「ヘッジ」の欄に計上され、下回れば需要項目に計上される。
 しかし、銀の鉱山生産の約80%がバイ・プロダクション及びコー・プロダクションによるものであるため、金と比較すると、銀のヘッジはそれほど活発ではなく、供給全体に占めるシェアは数%にとどまっており、ヘッジを行う業者の数は極めて限定されている。


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第3節 銀の需要

銀は、かつては金と同様に宝飾品や通貨手段として用いられていた。しかし時代が進むにつれ、銀は、その熱や電気の伝導性の高さや加工性の高さから、工業用としての重要な役割を果たすようになった。
 現在の銀の需要を大別すると、写真感光材料としての写真フィルム産業部門、その他の工業部門、宝飾品部門、メダル・貨幣部門の4つに分けられる。

第1項 写真フィルム産業部門の需要

銀は硫化することによって黒く変色する。こうした性質を利用して、銀は写真フィルムの感光剤(臭化銀、ヨウ化銀など)として利用されている。また、単独では濃淡しか表現できないが、複数の色素とフィルター等を組み合わせ、波長に応じて感光の度合いを変化させることにより、カラーでの記録をも可能にした。
 2012年の写真フィルム産業の需要は1,797トンと、銀の総需要量32,604トンの約6%を占めており、その主な消費国は米国と日本である。
 近年はデジタルカメラの普及が進んでおり、使い捨てカメラのブームもあって、一時期増加傾向にあった写真フィルムの銀需要も、1999年をピークとして減少に転じ、過去10年間で約3分の1に減少した。

第2項 その他の工業部門の需要

銀は融点が低く、加工性に優れ、熱伝導性や導電性が高いことから、エレクトロニクス産業、電池・ 化学触媒、メッキ、銀ろう(はんだ)、展伸材といった幅広い工業分野でも利用されている。
 2012年の写真フィルム産業以外の工業用需要は14,490トンと、同年の銀の総需要量の44%を占めている。その主な消費国は、需要量の多い順に米国、中国、インド、日本である。経済成長著しい中国の工業用需要は、2000年からの12年間で約2.5倍に増加した。
 近年は写真フィルム需要が減少する一方で、エレクトロニクス部門を中心とした工業部門の需要が拡大しており、需要構造の変革が進んでいる。

第3項 宝飾品・銀器需要

日本では、宝飾品としては金や白金が好まれるが、欧米、中東、インドなどでは宝飾用としての銀の人気は高く、指輪やネックレスといったジュエリーのほか、食器材としても古くから根強い需要がある。インドなどでは、「その家を見るには銀食器の手入れ具合を見ればよい」と言われるほど、銀食器の人気は高い。 
 2012年の銀の宝飾品・銀器需要は7,167トンと、銀の需要量全体の20%以上を占めている。国別では、需要量の多い順に、中国、インド、タイ、イタリアが主な消費国として挙げられる。1992年以前は加工需要の多いイタリアが銀の宝飾品需要では世界一の消費量を誇っていたが、1990年代からタイ、インドが銀消費を増大させたため、宝飾品需要に占めるシェアは低下した。その後、2000年代に入ってインドの宝飾品・銀器需要が低下し、中国の需要が急激に増加したため、現在では中国が世界最大の銀の宝飾品・銀器消費国となっている。
 なお、宝飾品などに利用する場合、純粋な銀では柔らか過ぎて傷つきやすいため、他の金属との合金の形で利用されることが多い。なお、日本の造幣局で貴金属として認めているのは純度80.0%以上である。

第4項 メダル・貨幣用需要

メダル・貨幣部門とは、記念銀貨や流通銀貨などの鋳造用の需要を指している。
 2012年のメダル・貨幣部門の銀需要は2,884トンであり、総需要量に占める割合は約9%となり、前年比で22%減少した。

第5項 退蔵投資

 銀の需要項目の「投資」とは、投資目的での銀の購入をいう。ここに数字が出ているということは、投資需要がネットでプラス(すなわち「買い越し」)であったことを意味する。
 これに対応する供給項目は退蔵放出またはマイナスの投資で、これは投資目的で退蔵していた銀の売却を表す。供給項目にこの数値が立つということは、銀の投資がネットでマイナス(すなわち「売り越し」)であったことを意味する。
 銀の投資需要は、2008年以降買い越しとなっており、店頭市場での売却が進んだとみられる2008年の291トンから2012年の4,976トンまで17倍に急増した。これは、2006年4月から取引が開始された銀ETFや現物地金などへの投資の増加によるものとみられる。

第6項 銀ETFによる投資需要

2006年4月、アメリカン証券取引所(AMEX)に銀ETF(iShares Silver Trust)が上場された。オーバルネクストによれば、このETFの2013年9月4日時点の銀の保有残高は約10,537.7トンとなっている。
  コモディティETFは裏付けとして現物を保有することから、ETFの残高増加は現物の需給逼迫感につながることがある。2006年の銀ETF上場前には、市場流動性に与える影響に対する懸念が銀価格の高騰をもたらした。2007年にも新たなETFが上場されたり、上場予定のニュースが報道されたりしたが、2006年に比べて、価格への影響は軽微なものにとどまった。2008年にはETFの保有高の増加傾向が顕著となり、同年9月のリーマンショックによる急落後の価格上昇要因になった。また、2009年から2010年にかけても新たな銀ETFが上場されており、2012年には、世界の銀ETFへの需要が1,714トン増加するなど、近年、銀の市場動向を見極める上では、ETFの動向がより重要になってきている。

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第4節 銀の在庫

 銀の主な地上在庫としては、政府保有在庫、取引所在庫・ディーラー在庫、民間退蔵・メーカー在庫などが挙げられる。

第1項 政府保有在庫

2010年末時点において銀の政府保有在庫は、およそ3,421トンと推定されている。2012年の政府の純売却量は229トンとなり、前年比39%減と大幅に減少した。主な要因は前年同様、ロシアの売却量が引き続き減少したためとみられている。(第2節 第3項参照)。

第2項 取引所在庫・ディーラー在庫

取引所在庫とは、取引所の指定倉庫に保管されており、取引所で受渡し可能な銀の在庫を指す。特に銀の最大の先物市場であるニューヨークの商品取引所:COMEX(New York Mercantile Exchange, COMEX Division)の指定倉庫の在庫は、重要な指標として利用されている。東京商品取引所も定期的に在庫を発表しているが、数量的には極くわずかである。また、ディーラーが保有している銀の在庫(ディーラー在庫)は、通常、公表されていない。
 銀の一時的な需給は、取引所在庫やディーラー在庫によって調整されることが多いので、在庫の変動は重要な相場材料となる。
 COMEXの銀の指定倉庫における在庫 (CME Groupウェブサイト中のNYMEX Daily Reportに掲載されている)は2013年10月9日時点で5,144トンとなっている。

第3項 民間退蔵・メーカー在庫

個人や金融機関が保有する銀は民間退蔵、メーカーが原材料として保有する銀はメーカー在庫と呼ばれる。これらの在庫数量も原則として公表されることはない。なお民間退蔵については、第3節 第5項を参照のこと。

第5節 銀の価格変動要因

銀は、金と同様に経済・インフレ・金利動向、国際情勢の緊張と緩和などが価格変動要因となる。また、金・白金や非鉄相場の動きからも影響を受ける。さらに、株式・債券の動きやオプション取引の影響を受けることもしばしばある。
 しかし、他の貴金属に比べ、銀が物価やインフレ動向に敏感で、かつ金よりも値動きが激しい一因には、過去にインフレに強い貴金属として金以上のパフォーマンスを見せたことが挙げられる。
 米国商品先物市場では、商品先物市場全体のすう勢を示す ロイター/ジェフリーズCRB指数(以下CRB指数) が身近なインフレ指標として注目されるが、インフレ懸念が高まったり、CRB指数が上昇傾向を強めるような局面では、CRB指数の主要構成品目となる農産物や原油の動きに銀価格が敏感に反応することが見受けられる。
 供給面では、メキシコが世界最大の生産国であることから、メキシコに次ぐ生産量を誇るペルー、中国と合わせて、その生産・輸出動向や、政治・経済情勢が重要な変動要因となる。中国においては政府による売却が目立っていたが、急速な経済成長によって国内需要が増加し、2007年以降は中国政府による売却はほとんどないといってよく、2007年以降の世界の政府による銀売却のほとんどはロシアによるものとみられている。
 需要面では、デジタルカメラの普及を受け、2000年以降は写真フィルム需要が減少傾向にある。一方、BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)を中心とした世界的な景気拡大の影響から、産業用需要(写真フィルムを除く)が増加傾向にあったが、2012年は新興国の景気が減速したことなどから、工業用需要は14,490トンと、前年比約5%の減少となった。

第1項 メキシコ

世界第1位の銀生産国であるメキシコは、2012年の鉱山生産実績が5,046トンとなり、世界の鉱山生産において約20%のシェアを占めている。銀のほかに石油や金、銅、鉛、ウランといった天然鉱物資源が豊富で、国家経済はこれらの資源輸出に大きく依存している。
一方、多額の対外債務を抱えている国としても知られており、1994年12月にはセデイジョ大統領が、 過大評価されていた通貨ペソの15%切り下げを実施し、その後ペソが変動相場制に移行されたにもかかわらず、国内資本の海外流出が続いて通貨危機に陥った。
米国の強力な支援があって一時底をついていた外貨準備高も1995年夏には回復し、かつての深刻な状況は遠ざかった。GDP成長率も2003年(1.4%)以降、リーマン・ショックのあった2009年には▲6.2%とマイナスに転じたものの、2010年には5.5%、2011年には3.9%と、再び上昇傾向にある。また、2011年における中央銀行の外貨準備高(年平均)は1,366億ドルとなっている(外務省資料)。しかし、国内の地域間・階層間格差の問題を中心に不安定要素もあり、こうしたメキシコの政治・経済情勢は、銀相場を予想する上での手がかりになることがある。

第2項 ペルー

2000年代初頭にメキシコを抜いて2009年まで世界最大の銀生産国の座にあったペルーは、2012年の鉱山生産実績が3,461トン(メキシコ、中国に次いで第3位)となり、世界鉱山生産合計24,478トンに対し約14%のシェアを占めている。銀のほかに銅、亜鉛、金をはじめとした天然鉱物資源が豊富で、同国の主要輸出品目となっている。
 2007年には主要輸出産品である鉱産物の国際市場価格の上昇により、貿易黒字が拡大。これに牽引された国内需要の成長を受け、2007年、2008年のGDP成長率は、それぞれ8.9%、9.8%を記録した。それ以降も、世界同時不況となった2009年には0.9%にとどまったものの、2010年には再び8.8%の高い成長率を記録し、2011年も6.9%と、引き続き高い水準を維持している(総務省統計局「世界の統計2013」より)。銀生産量についても、近年、2009年までは一貫して増加傾向にあったが、2012年の生産量は、前年の3,414トンとほぼ同水準となった。これは、深刻化する地元住民による反鉱山運動に加え、多発する労働ストライキ、エネルギーコストや労働コストの上昇などによるものとみられている。
 また、2008年に入ってからは、米国発金融危機に端を発する世界経済の減速や金属価格の急落が、 ペルーの鉱産物生産・輸出、企業業績、直接投資などを減速させている。さらに鉱山現場では、地域住民との衝突や対立の激化、労働ストの多発などが社会問題化しており、2010年には226トンの減産となり、生産量を大きく減少させた。2011年には生産量が若干上昇したものの、こうした状況は今後も続くとみられ、今後の同国の銀生産の見通しは不安定なものとなっている。
 こうしたペルーの国内情勢も銀相場を予想する上では重要になってくる。

第3項 中国

中国はメキシコに次ぐ世界第2位の銀生産国であり、2012年は3,640トン(世界鉱山生産に対して15%)を生産し、ペルーを抜いて世界第2位の銀生産国となった。1990年~1997年にかけては鉱山生産が需要を大幅に上回ったことから中国政府が過剰分を買い上げた。ただ中国政府は、1935年まで銀本位制を採用していた関係で莫大な在庫があったとみられ、ここに1990年代の買い付けで政府在庫が2,800トンも増加し、適正水準を大幅に上回ったことから1998年以降は売却に転じた。GFMSの推定ではその後6年間で1万トン近くが売却され、中国の売却動向が市場参加者の関心を集め、弱材料視されることがあった。
 しかし、中国経済の急成長によって加工用需要は2001年から急増し、2007年以降は3,000トン以上で推移している。中国政府は2004年に入ってから景気過熱を懸念して金融引き締め政策を採っているが、、GDP成長率は2003年以降、2011年まで毎年10%前後で推移し(総務省統計局「世界の統計2013」より)、これに合わせて加工用需要も拡大を続けている。中国の2012年の経済成長率は7.8%と、13年ぶりに8%割れとなったものの、銀需要は前年比12%増加したが、中国景気の減速は今後の同国の銀需要にも影響を与えるものとみられる。

第4項 需要動向 -写真フィルム用とその他工業部門-

写真フィルム部門における世界全体の銀需要は、1993年の6,197トンから1999年には7,087トン まで増加し、総需要の約4分の1を占めた。その後2012年には1,797トンまで減少し、世界の総需要の5.5%まで減少した。この部門の主要消費国は、米国と日本の2カ国であり、2012年には、日本474トン、米国は521トンで、2カ国で世界全体の写真用の需要の55%を占めている。欧州全体の需要量は651トンで、世界全体の36%となっている。欧米の需要は1999年まで緩やかな増加傾向にあったが、2000年以降は減少に転じた。一方、日本においても2001年までは増加傾向にあったが、2002年には大きく減少している。近年では、デジタルカメラの普及が写真フィルム産業の銀需要を減少させる要因となっている。カメラ映像機器工業会によると、日本におけるデジタルカメラ総出荷実績は2000年以降、増加傾向にあったが、近年はスマートフォンの普及等もあって頭打ちの状態にある。2012年の総出荷実績は9,810万台となり、前年比で15%減少した。日本の写真フィルム用の銀需要は2006年は2002年以来、4年ぶりに増加したが、2007年以降はデジタル技術の進歩による写真フィルム向けの銀需要の減少や、景気低迷などにより、一貫して減少を続けている。
 その他の工業用需要として、銀は融点が低く加工性に優れており、また熱を通しやすく電気伝導率が高いという特性が活かされて、エレクトロニクス産業や電池、科学触媒、メッキ、はんだといった幅広い分野で使用されている。こうした工業用需要は2012年実績で14,490トンとなり、総需要に占める割合は44%である。写真フィルム用途を除く銀の工業用需要は、2008年までは増加を続け、2009年の世界同時不況で減少に転じ、2010年には再び15,000トンを超えたものの、その後生産量は減少傾向にある。

第5項 ファンド等投資家の動向

他の貴金属同様、銀もまたファンド等投資家の投資対象として定着しており、こうした投資家の動向が価格に影響を与える。近年の先物市場における投資手法は、デリバティブ取引の発達により大きく変わってきた。
 現在、先物市場や店頭オプション市場を利用する投資家は、へッジファンドや商品ファンドなどの機関投資家も含め、1970年代並びに1980年代初頭に銀現物を大量に購入した旧来の投資家とは取引の目的や期間が大きく異なっている。現在の投資家は即効型のパフォーマンスを追求するのが特徴で、これが得られなければ投資資金は別の市場へと素早く流出する。その分、先物を含むデリバティブを通じた投資資金の動きが日々の銀価格の動向に及ぼす影響も大きくなっている。毎週金曜日にはCFTCより建玉明細が発表され、大口投資家(ファンド)の動向を知る上で注目を集めている。

第6項 在庫変動

需給要因の中でも、在庫変動は特に注視する必要がある。中でもNYMEXが毎日発表しているCOMEX指定倉庫在庫が身近な指標となる。単純に先進工業国で加工用需要が増加傾向にあれば、同在庫も間接的な影響で減少することがある。また、鉱山生産が増えたり、加工用需要が低下している場合は在庫の増加につながる。
 COMEX在庫は1990年代初めに8,000トン台にまで増加したが、その後は減少傾向にある。特に1997年は1年間でほぼ半減し、金価格が低迷したのとは対照的に、銀価格が堅調さを維持した主因となった。

参考 -ハント兄弟の銀投機事件-
 銀相場は1979年から1980年1月にかけて、史上最高値の50ドル台に暴騰した。当時、怒涛の銀買いを仕掛けたのが、石油で巨額の資産を築き上げた米テキサスのハント兄弟である。彼らの買い占めたポジションは、ピーク時には当時の世界鉱山生産の6割強に上った。
 1979年に起きたイラン革命をきっかけに第二次石油危機を迎え、世界中が極度のインフレ圧力にさらされていた。さらにその年の暮れには、ソ連のアフガニスタン侵攻も重なり、国際情勢も緊張の連続となった。ハント兄弟はこうした状況のなか、ドル資産の下落による資金の逃避先を銀に求め、大規模な投機を仕掛けた。彼らの行動には、このほかにも数名の大物投機家や富豪が加わった。事態を重く見たCOMEX理事会などは、最終的に買い注文は既存の玉の手仕舞いだけを許すというルールを設けた。これでようやく、スクイーズ(玉締め)の構造が崩れ、価格はわずか2カ月ほどで10ドル台に暴落するという結末を迎えた。
 ハント兄弟の銀買い占め事件は、銀の歴史のなかで最も衝撃的な出来事だったが、最近に至ってもスクイーズに近い価格操作を思わせるような相場展開や取引所在庫の急減が起きる可能性は否定できない。「値動きは荒く、投機色が濃い」これが相場における銀の特性とも言える。



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