検定試験テキスト -貴金属取引の基礎知識- - 学習

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第4章 パラジウムの商品知識

第1節 パラジウムの商品特性

第1項 性質と用途
  1. 希少性
     パラジウムは、貴金属の中でも希少性が高く、レアメタル(希少金属)の一種でもある。自動車触媒、電子機器などの工業用需要、あるいは歯科用材料等として用途が幅広いが、技術の発達により実用化が可能となったのは比較的最近のことである。それまでは長期にわたり「シック・メタル(病める金属)」と呼ばれ、価格も低迷していた。需要が多様化する中、1990年代後半の価格急騰を経て、貴金属の中で一定の位置づけを得ている。
  2. 物理的・化学的特性
     パラジウムの物理的・化学的性質に係る基礎的なデータは下記の通り。
     
    ・ 元素記号Pd、原子番号46、周期表8A族・プラチナ族の金属元素。
    ・ 原子量106.42、比重12.02(20℃)
    ・ 融点1,552℃、沸点2,964℃

    (1) 物理的性質

    ・ 加工が容易。
    ・ 他の金属との合金が容易。
    ・ 耐熱性に優れる。
    ・ 耐アーク性に優れる。(※アーク:放電による火花)

    (2)化学的性質

    ・ 空気中や水中で酸化しない。
    ・ 耐蝕性を有する。
    ・ 触媒作用を有する。

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第2節 パラジウムの供給

(以下、需給統計に関する数値は、ことわりのない限り、トムソン・ロイターGFMS社発行「Platinum & Palladium Survey 2013」またはジョンソン・マッセイ社発行「Platinum 2013」による。)

 パラジウム供給の特徴は、供給ソースが限られていることであり、2012年の鉱山生産量では、ロシア(81.8トン)、南アフリ カ共和国(72.5トン)の2カ国で世界全体の約76%を占めている。
 パラジウムの供給量は、1980年代は約80トンから100トンの間で推移したが、1990年代に急速に伸び、1998年には261トンを記録するに至った。しかしその後は4年連続して減少し2001年には182トンにまで下落、そして再び上昇傾向に転じたが、2007年から2009年にかけては、世界的な景気低迷に伴い供給量の減少が続いており、2012年には203.6トンと、前年比11%減少となった。

第1項 ロシア

ロシアは世界最大のパラジウム生産国であり、2012年の供給量は81.8トンで、世界全体の供給量の約45%を占めているが、このうち約28トンは国家備蓄の売却とされている。 供給量が前年比で半分以上減少した2002年は、南アフリカに供給量トップの座を明け渡したが、これは当時のパラジウム価格の著しい下落を受けて、スポット市場での売却が見合わされたためである。
 パラジウムは、世界最大のパラジウム生産会社であるノリリスク・ニッケルにより、主にニッケル・ 銅の副産物として産出されている。そのため、ニッケルおよび銅の生産動向によって供給量は変化する。
 シベリアに位置するノリリスク社の鉱山では、採掘できるのが冬季に限られており、年間生産量は90トンが限度と推定されている。したがって、これを超える供給は在庫を取り崩していることを意味する。

第2項 南アフリカ共和国

南アフリカのパラジウム生産量は、2012年は前年比9%減の72.5トンであった。南アフリカでは、多くの鉱山において安全面の問題、労働者不足、電力供給不安、技術的問題等を抱えている中で、PGMの生産量が減少しており、パラジウムも例外ではなく、今後、生産量の減少が見込まれる。

第3項 その他の産出国

北米の生産量は、2012年は29.6トンで、世界の供給量に占める割合は14%であった。 カナダではパラジウム含有量の多いノースアメリカン・パラジウムのラク・デ・イル鉱山をはじめ、ニッケルの副産物として採掘しているヴァーレ(CVRD:Companhia Vale do Rio Doce)社やエクストラータ社が生産している。米国ではスティルウォーター鉱山でパラジウムを産出しているが、2001年以降のパラジウム価格急落などによって経営難に陥り、2003年、ロシアのノリリスク・ニッケルに株式の半分を買収されることとなった。

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第3節 パラジウムの需要

パラジウムは工業用需要が最大である。2012年の総需要量307.8トンに対して工業用需要(投資需要と宝飾需要以外)は279.4トンで、需要全体の約9割を占めている。近年、パラジウムの消費量が増加している中国は2012年、59.3トンを消費し、需要全体の19%を占めた。最大の需要項目は、1996年以降は自動車触媒用需要となっている。

第1項 自動車触媒

自動車触媒用需要は、総需要の約66.8%を占める最大部門で、2012年は205.7トンと前年比7%増加し、史上最高水準となった。北米は17%増、日本では15%増、中国は9%増、経済の低迷から自動車販売が低調だった欧州では2%減となった。
  パラジウムは、2000年初頭の価格上昇に加え、ロシアの不安定な供給によって白金への代替が進み、自動車触媒用需要は2002年に大きく減少した。しかしその後パラジウムと白金の価格差が拡大したことから、自動車メーカーがパラジウムに回帰し、需要量は回復した。2007年から2009年にかけては世界的な景気低迷の中で各国で需要が減少したが、2010年には再び回復に転じた。

第2項 エレクトロニクス需要

パラジウム等のPGMは、耐触性、耐熱性、耐アーク性などの優れた物質的特性を備えているため、電子・電気分野における用途は幅広い。この分野の需要は、近年のパソコン市場の拡大、移動体通信の伸び、そして自動車のエレクトロニクス化によって急速に伸び、1995年には81.5トンと、需要全体の43%を占めるに至った。特に電子回路の重要な部分を構成する積層セラミックコンデンサ(MLCC)需要が拡大した。しかし、その後は在庫調整や構成物品の小型化、ニッケルなどへの材料の代替化が進んだことから需要が伸び悩み、2000年以降の景気後退も重なって急減し、2001年に24.9トンまで減少した。2003年以降、状況は改善され、需要は回復傾向にあったが、2009年には前年9月に発生したリーマンショックの影響等による先進国経済の低迷を受けて横ばいの状態が続き、2012年は37.3トンで13%減となった。

第3項 宝飾品需要

宝飾品需要としては、パラジウムはホワイト・ゴールドを製造するための合金として利用される。総需要でみると、宝飾品需要は、中国が世界全体(13.8トン)の約54%(7.5トン)を占めており、2008年以降、世界の需要が減少を続ける中、2012年の中国の需要も前年比21%減少となった。

第4項 歯科需要

歯科需要としては日本が最大の市場であり、2012年は6.8トンで全世界の歯科需要(16.5トン)の4割を占めた。 需要量は保険制度の影響を受け、日本では、保険対象外の金含有量の多い合金の歯科需要が減少する一方、保険対象となるパラジウム含有量20%の合金の消費が伸びてきたが、金からパラジウムへの代替による費用低減が治療費全体に占める割合は高くなく、見た目の問題等の要因から、セラミックやレジン等の他素材の使用が増加する中で、パラジウムの歯科需要も減少傾向にある。また、人口の高齢化による歯科治療機会の増加も全体の消費を押し上げることとなるが、日本では歯科医院来院者数が減少傾向にあり、今後の歯科需要の見通しは不透明である。



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第4節 パラジウムの価格変動要因

パラジウムの需給は、主要生産国であるロシアからの供給(売却)が年によって大きく変わるため、その動向が最大の変動要因となる。需要面では総需要の約5割が先進国での自動車触媒と電子・電気部門に集中しているため、日米欧の景気動向が重要視される。
 また、パラジウムは白金の代替商品としての性格を持っており、白金価格があまりに割高になると、例えば、自動車触媒に用いる白金の使用量を減らし、パラジウムの割合を増やすといったことが行われる。その場合は、パラジウム価格の上昇要因となるが、逆にパラジウムが高くなりすぎると、白金に回帰するという傾向が見られる。

第1項 ロシアの売却

ロシアの売却は、取引相手国との長期契約とスポット市場での売却に大別できる。市場への影響力として無視できないのがスポット市場での売却である。1985年のペレストロイカ以降、市場経済化に伴う資金需要増加を補うための外貨獲得手段として売却が進んだため、1993年から急増し、1994年以降は年間の売却量は100トン台で推移した。2001年以降は価格急落によってスポット売却を停止したため急減した。しかし2003年に入ると、価格下げ止まりや景気回復見通しなどにより、スポット売却を再開しつつある。ロシアは不安定な供給によって顧客の信頼を失ったが、最近では売却量を調節することによって、価格を安定させ信頼を取り戻す動きが認められる。 ただし、2012年にはロシア政府のパラジウムの国家備蓄がほぼ枯渇したとみられる一方で、自動車触媒需要は増加しており、今後のパラジウム価格への影響を注視する必要がある。

第2項 世界各国の景気

近年は、パラジウム総需要の約7~9割が工業用需要(歯科、宝飾以外の需要)のため、各国の景気動向はパラジウム価格を大きく揺さぶる。
 電子・電気産業の景気動向の判断材料として、従来は毎月上旬に発表される米国の受注・出荷レシオ(出荷額に対する受注額の割合のことでBook to Bill Ratio、BBレシオともいう。)が注目された。これは米半導体市場の出荷と受注の状況を示すものだが、1996年いっぱいで廃止され、1997年以降は世界を4地域に分けた地域別出荷額統計や製品別出荷額統計をまとめた「世界出荷額リポート(Global Billing Report:GBR)」に置き換えられている。
 また白金と同様に、特に欧米での自動車産業の動向も重要な変動要因となる。

第3項 新型触媒開発

自動車触媒については、新型触媒の開発やその発表が、これまでたびたび市場を揺さぶった。1996年8月に、米ゼネラル・モーターズ(GM)社が新型触媒の開発を発表したが、低温でも浄化機能が高い新触媒開発で、パラジウム触媒需要が減少するのではとの思惑から、相場は2年半ぶりの安値に下落した。また最近では2003年5月にGMがパラジウム回帰を発表し、価格が一時的に急伸する場面が見られ、自動車触媒におけるPGMの使用比率も市場参加者の関心を集めている。
 なお、GMは2009年6月1日、米連邦破産法第11条の適用を申請し、経営破綻したが、その後、実質国有化され、経営再建が進められた結果、2010年11月には再上場を果たし、同年12月期の決算で黒字転換、 2011年の生産台数は903万台となり、世界一となった(2012年にはトヨタが再び世界一となった)。 再生後のGMは大型車に特化しており、同社の生産動向は引き続き、パラジウム需要に影響を与えるものとみられる。また、同社は2013年7月に、今後7年間、ホンダと提携して燃料電池車の技術開発を行うと発表しているほか、最近、自動車メーカーにおいて燃料電池車の開発に向けた取り組みが活発化している。燃料電池にはパラジウムが使用されることから、燃料電池車の普及はパラジウム需要の増加につながるため、燃料電池車の技術開発動向にも注視する必要がある。

第4項 戦略物資としての在庫

パラジウムも他の貴金属と同様、戦略物資として保有されているため、在庫の放出は市場への弱材料として作用する場合がある。例えば1995年9月、米国は1996会計年度(10~9月)にパラジウム約33トンの放出を予定していることが報道された。段階的に放出されるため、需給バランスにはほとんど影響はないのだが、軟調地合いのなか市場が過剰反応したため、東京市場でも1週間で約40円前後の下落となった。

第5項 投資需要

2012年のパラジウムETFの投資残高は前年比7.4トンの減少となった。 パラジウムのETFは、2007年4月にETF Securitiesがロンドン証券取引所に、翌5月には、チューリッヒ・カントナル銀行がスイス証券取引所にそれぞれ上場した。また、ETF Securitiesは、2009年8月には東京証券取引所に、2010年1月にはニューヨーク証券取引所に相次いでパラジウムETFを上場した。東京証券取引所には2010年7月に三菱UFJ信託銀行による現物型パラジウムETFが上場されている。2010年には、ほかにもスイスの金融機関グループであるJulius Baerやドイツ銀行がパラジウムETFを上場し、2012年12月には、Sprott Physical Platinum & Palladium TrustがNYSE Arca取引所とトロント証券取引所に上場された。2012年末時点でのこれらETFによるパラジウムの投資残高は66トンに達しており、今後もパラジウム投資需要にETFの動向が注目される。


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